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印パ国境における、熱すぎる闘い

2009/08/08


久々に標高の低い地域に戻ってみると、季節はすっかり雨季。
高地の乾いた空気にさらされっぱなしだった肌がしっとりしてきたのはうれしいけれど、雨降りの街を歩くのはいささか大変だ。だってそれなりの雨対策が必要になるし、水はけの悪い道路ではすぐ冠水して歩くのも困難だから。
雨に難儀するのは、現地の人も同じ。
その証拠にほら、ターバンにシャワーキャップ姿でバイクに乗っているではないか。
ぐるぐると布を巻いてあるから、一度雨に濡れたら乾くのに時間がかかってしまうのだろう。シャワーキャップ以外にもビニール袋を上からかぶって対処している人も多い。

ここアムリッツァルは、シク教徒にとっての聖地。
インド人といったらターバン、というイメージは、髪を切らず髭を伸ばしてターバンの中に収めるというこのシク教徒男性の出で立ちからきている。
ところで、シク教とはいったいどんな宗教なのか。


15世紀に始まったとされるシク教は、ヒンズー教とイスラム教の教えだけでは物足りないと感じた創始者の、人間は皆平等という理念に基づいた宗教で、家庭を大切にし、一生懸命働くことを奨励している。
異教徒でもシク寺院に自由に参拝できるだけでなく、無料で食事をふるまい、宗教やカーストに関係なくひとつの部屋でいっしょに食べるなど、信仰にかかわらずあらゆる人に開かれた印象がある。
また、海外で暮らすシク教徒も多く、インド人=ターバンという図式で見られるのはそのためだろうが、インド全人口におけるシク教徒の割合がたったの2パーセントということを考えると、どれほど彼らが世界で活躍しているかがわかるだろう。
アムリッツァル観光の目玉とも言えるシク教の総本山、黄金寺院へお参りする前にちょっとした準備が必要だからと、軒先にスカーフや帽子のようなものがぶら下がっている1軒の商店に立ち寄る。
これって、シク教徒の若い男性がターバン代わりに巻いているものだよね。「これを巻きたいんだけど、やり方を教えて」
ちょっと困ったような表情をした店員が、奥にいるほかの店員となにやら相談をしてからこちらにやってきて巻いてくれる。というのも、頭をこのように覆うのは基本的には男性のみで、女性はインド人女性の日常着サルワール・カミーズについているショールをさらっと巻くだけ。
だけど、せっかく髪が長いのだからどんな風に巻いているのか実際に体験したいという好奇心からのお願いだったのだけど、ちょっと困惑させてしまったようだ。
ちなみに、わざわざ買わずとも黄金寺院で無料で貸してくれるので、手ぶらで行ってもまったく問題はない。
おでこのあたりでだんごにした髪を前方がぽっこり膨らんだ帽子風スカーフで包むと、ピンや整髪剤なしでぴしっとまとまるし、これは具合がよい。
お次はターバンも、とリクエストしたら、ターバンは男性のものだからとやんわり断られてしまった。

準備万端で黄金寺院のセキュリティゲートをくぐり、サンダルを預け、入口前の小さな池で足を清めたらいよいよ中へ。
と思ったら、ターバン姿の警備員に止められ一言。「靴はどこにあるの?」
靴の持ち込みは厳禁で、たとえかばんに入れていてもだめだという。ちゃんと預けてきたことを話すと、ご協力ありがとうと笑顔で返される。
階段を下って寺院に入ったすぐのところでは、手を合わせ、床にひれ伏してお参りする参拝者たち。その多くがターバンを巻いたシク教徒で、中央の大きな池を取り囲む白い大理石の回廊にも、ターバン姿の人がいっぱい。
警備員や寺院関係者もターバン姿で、ちょうど視線と同じぐらいの高さにピンクや青、小豆色などのさまざまな色が溢れているというのはなかなか面白い光景だ。

中央の池に浮かぶようにして建っている黄金色に輝く聖堂が黄金寺院のシンボル、ハリ・マンディル・サヒブだ。蓮の花をかたどった聖堂はどことなくイスラムの香りが漂うが、ぴかぴかの金箔に包まれているところがシク教ならでは。
まばゆい光に満ちた聖堂へ延びる橋には参拝を待つ人で長蛇の列ができていて、頭上にはたくさんの扇風機。待つ人が暑くないようにとの配慮がにくいと同時に、これだけ設備の充分な寺院は珍しいように思う。

中に入ると楽器を演奏しながらキールタンという聖歌を歌う僧と、歌詞が書かれた本を片手に歌を口ずさむ信者たちでいっぱいで、歩くスペースはほんの肩幅分ほどしかない。
ぞろぞろ歩いていると真ん中に向かって信者が紙幣やコインを投げていくから、お金があちこちに散らばる。それを定規でかき集める僧の手も、絶えず動かしていなくては追いつかないから忙しそうだ。
人をかきわけながら階段を上ると、今度はガラスで仕切られた部屋の中でふたりの僧が超巨大な経典をめくりながらキールタンを追っていたり、経典をめくる人のうしろで白いふさふさの毛がついた神具を一定のリズムで右に左に大きく振る人が。キールタンの詠唱は毎日、早朝から夜遅くまでほぼ休憩なしで続けられるというから、僧も相当タフでなければ勤まらない。
白い回廊に戻ってくると、廊下のど真ん中でハリ・マンディル・サヒブに向かってお祈りする人をあちこちで見かける。偶像崇拝を禁ずる教えであるが、祈るときには自然と聖なるものに体が向いてしまうのだろうか。でもこの感じ、神社に行ったら反射的に社に手を合わせるのと近いような気もする。

祈る人のあいだを通り抜けたら、向かうはグル・カ・ランガル。無料で食事をふるまってくれる大きな食堂だ。
たくさんの人が吸い込まれるように入っていき、そのあとをついて歩いて入口で手際よく皿やスプーンを配る人から一式をもらったら室内へ。床に敷かれたじゅうたんの上に腰掛けると、空っぽの皿を見つけた配膳係がチャパティをひょいっと投げ、ご飯やおかずをどさっと盛っていき、あっという間にワンプレートランチの出来上がり。
素朴なベジタリアン料理を黙々とほおばり、食べ終えたあとは自分で食器を下げに行く。そこでは片付け係がフリスビーのように華麗な手さばきで皿を大きなカゴに投げ入れていき、洗い場で一列になって待機しているたくさんの皿洗い係の元へと運ばれる。
素晴らしい連携プレーで成り立っているこの食堂へいくばくかの寄付をしたら、黄金寺院の見学はこれにて終了。

このあとは、ちょっと遠出して国境まで。
隣国パキスタンに抜けるため、ではなく、ここで毎日行われる国境の閉鎖式を見に行くのだ。
インドとパキスタン。領土問題など、さまざまな場面で言い争いの続くこの2国間で、お互いの力をとことん見せつけるぞと言わんばかりの勇ましい行進と、一日を無事に締めくくろうという協力の下に繰り広げられる儀式を目当てに、インド側のアターリー国境とパキスタン側のワガー国境には見物客が大勢詰めかける。
行きも帰りも乗り換えなしで楽だからと乗合ジープで行くことにしたはいいが、定員が埋まらなくて出発時間は予定より遅れるわ、途中でギアがニュートラルに入ったまままったく動かなくなって立ち往生するわ。
けれども確実に閉鎖式に遅れるぞとやきもきしたところで事態が好天する兆しもなく、ただただ辛抱強く待つしかなすすべがない。
それでもどうにか解決してしまうのがインドの驚くべきところで、乗客の男性が何人かで車を後ろから押し、ドライバーががしがしと叩きつけるようにギアを動かしているうちになんとか走るようになった。1速のままで、とてもスローな走りぶりではあったが。
国境のだいぶ手前でジープは道を脇に逸れてストップ。ここから国境までは20分歩くか、もしくは頻繁に往復しているサイクルリキシャーで向かうのだと言う。すでに時間は17時半、閉鎖式はもう始まっている。声を掛けてきたサイクルリキシャーの言い値は少々高いような気もするが、間に合わなかったら意味がない、お金をけちるより閉鎖式を見ることが先決だ。
サイクルリキシャーを降りたら男女別々でセキュリティチェックを受け、外国人は途中で脇道に入るよう指示される。道を抜けた先には空いたスペースがある石段状の観覧席があって、外国人と許可証を持ったインド人のみが座れるこのVIPエリアに対し、柵を越えた隣の一般席にはすでにインド人がびっしり。
何人かのインド人が柵をまたいでこちら側に移動しようとすると、すぐさま警備員が怖い表情で警笛を鳴らし戻れと注意をする。
道に目を向けると、大きな国旗を担いで国境のゲートぎりぎりまで全速力で走る人が続く。まるで運動会のリレーを見守っているようだ。中には足がもつれて転んでしまう人もいて、がんばれと言わんばかりにひときわ声援も大きくなる。
同じことがパキスタン側でも繰り広げられているらしく、時折風に乗って応援している声が聞こえる。

国旗リレーが終わると、スピーカーから大音量でインドポップスが流れ出し、その音につられて学生が一斉に道路になだれ込んできて一生懸命踊り始める。汗だくになって手をひらひら腰をふりふり、すっかりディスコに様変わりしてしまった。

しばらくすると司会者が登場し、なにやら高らかに話し出す。周りにいるインド人はその言葉に歓声を上げ、拍手をする。ついに始まるのだろうか。
その後も「インド万歳!」という司会者の声に合わせて叫んだり、興奮を抑えられなくて自ら周囲の観客を煽る人が出てきたりはするけれど、なかなか閉鎖式は始まらず、そのうちだいぶ日も傾いてきた。

暑さと待ち疲れで飽きてきた頃、ようやく衛兵所から次々と兵士が出てきた。
姿勢を正して、一列に並んで太ももを高く上げてドン! と地面を蹴る。背筋を伸ばして行進を始め、観客の前でふたたび整列。わき起こる歓声と拍手の中、威風堂々と胸を張って立つ兵士たちの誇らしげな顔。
隊長が合図をすると、ひとりの兵士が握ったこぶしをぶん、と下に降ろし、大きく手を振ってものすごいスピードで国境のゲートに向かって行進を始める。歓声は止むどころか、ますます激しくなる。

国境ゲート前には同じように行進してきたであろうパキスタンの兵士も到着して、にらみ合うようにして敬礼をしたら、さっと振り返って脇に控える。
ほかの兵士も同じように、続々と国境ゲート前に集まってくる。
写真を撮ろうと立ち上がる人には即座に注意していた警備員も、もうほとんど諦めている。見たい一心で立つ人が現れると、見えなくなったからといって立つ人が出てきて、もう収拾がつかない。しかも興奮が最高潮に達しているから、注意する声も耳に入ってきやしないという様子。
インド側、パキスタン側ともに兵士が整列して一呼吸置いたら、国旗がゆっくりと降ろされていく。斜めに張ったひもを伝って、同じスピードで降りていく国旗を見つめるときは、あれだけ騒いでいた観客も静かにその一点を見つめている。
国旗が手元に届くと、すぐにたたんで衛兵所目指して一目散に行進をして去っていく。鳴りやまない歓声と拍手。
今日も無事に国境は閉じられた。また明日、ここが開けられたらたくさんの人や車が行き来するのだろう。

復路はギアの故障こそなかったもののさらにゆっくりのスピードで、アムリッツァルに戻ってきた。
そうだ、夜の黄金寺院へ行ってみよう。
サンダルを預け、かばんからスカーフを取り出して頭に巻き、階段を下りる。
暗闇に浮かぶ金色の寺院が、漆黒の池にそっくりそのまま映っている。なんて美しいのだろう。
昼間の暑さも落ち着き、池の周りで祈る人、座っておしゃべりを楽しむ人で夜でも活気に満ちている。こんなに美しい寺院を前にして思い思いに過ごすなんて、ずいぶんぜいたくな一日の締めくくりだ。
今日も無事に旅できたこと、面白いものに出会えたことを感謝しながら、しばらく昼間の熱が抜けた白い回廊に座ってボーッと寺院を眺める。
そのうち、ジープのトラブルも国境の閉鎖式がなかなか始まらなくてくたびれたことも、すべてがいい思い出のように思えてきて、今日もじつに楽しかったなあと一日を振り返って充実感に浸るのであった。




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2009.7.24 アムリッツァル / Amritsar

Join the discussion 2 Comments

  • goo より:

    こんばんは。いつも楽しく拝見しています。
    先日友人からワガー・アターリーの国境閉鎖式のことを聞いたとこだったので、興味津々で記事を読ませて頂きました。
    緊張状態にある両国ですが、こんなとこでも調和がとられているんですね。実際肌で感じられて羨ましいです!
    気をつけてよい旅を続けて下さい。

  • スミサト より:

    ■gooさん
    gooさんのサイトに埋め込まれていたYoutubeを拝見しましたが、素晴らしい映像ですね。
    会場ではDVDを売っていたりもするのですが、買うのもアリだったかな、なんて思ってしまいました。