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天上の青い湖と、あたたかいもてなし

2009/07/26


レーでの日課は、街のいろいろなところにある旅行代理店の前に出された掲示板のチェック。
今日こそは条件ぴったりのものが見つかりますようにとの願いを込めて、1件1件見て歩く。
インド広しと言えども、ラダックほど絶景の宝庫なところはない。
望めば6000m級の雪山へのトレッキングや、富士山よりさらに高いところにある湖へのジープツアー、険しい渓谷を通ってラダックの魅力ある村々を訪れて、さまざまな美しい風景に出会うことができる。
ただし、それなりに費用がかかるのもまた事実。
そこで少しでも安く抑えようと、掲示板に募集の告知を出して仲間を探すのである。
お財布事情と体力と、掲示板に張り出されたプランを見てどこに行こうかなと考える時間は、大いに迷うけれどとても楽しい作業のひとつだ。
さて、今回探すのは世界一標高の高い車道を通って温泉やゴンパや素朴な村々を訪れるというヌブラ谷1泊2日ツアーと、映画『落下の王国』にも登場した標高約4200mに位置する真っ青な色が印象的なパンゴン湖への日帰りツアー。
結果、どちらのツアーも満足のいく内容だったのだが、今回は当初の予定を変更して出かけたパンゴン湖プチトリップについての話を。


あ、あった。
日程も行き先も、希望通りのものが掲示板に貼ってあるではないか。しかも同じ代理店にどちらも揃っている。
ただ、日帰りを希望していたパンゴン湖行きが泊まりがけという違いこそあれど、行きたい日がここまでぴったり合っているのはこれしかない。
長くいられればそれだけ湖の異なる表情が楽しめるかもしれないし、よし、ここでふたつとも申し込んでしまおう。
出発当日、宿にピックアップにやってきたジープの中にはチェコ人姉弟のエヴァとアライエム、ドイツ人のサンドラがすでに乗っていた。
簡単に自己紹介を済ませ、これまでの旅のルートや思い出深かった街の話などをして車中はにぎやかに。
だいぶ上っているなとは感じていたものの、気がつけば標高5360m、雪の残るチャング峠に達していた。
いったんストップして、トイレ休憩がてら撮影タイム。
峠には必ずあると言ってもいい簡素な寺院には、チベット仏教に欠かせないタルチョが張り巡らされているのに、中に入るとヒンズーの神であるシヴァ神やら誰かわからない肖像画やらが一緒くたに並べられている。
宗教は違えど、道中の無事を祈る気持ちは同じというこのミックス感は、インドならでは光景のような気がする。
20分以上ここにはとどまらないようにとの注意書きにずいぶん高いところに来たと実感しつつ、早くお目当ての湖へ行きたいということもあって、さっと車に戻って再出発。

ここからはしばらく下り坂が続く。
急カーブに負けないように体勢を維持し、まっすぐ延びる道を走る際には体の力を抜いて絶景を見落とさないように目を凝らして車窓を眺める。

ぽつりぽつりと民家が出てきたところで車はストップ、ランチ休憩を取ると言う。タンツェという小さな村にある宿兼レストランに入って何を食べようか思案していたら遠くから太鼓の音が聞こえてきて、その音がだんだんこちらに近づいている。
外へ出てみれば、太鼓やホルンを演奏しながら各家の玄関先を回っている集団がいる。その中には民族衣装をまとって大きな経典や仏像を担いでいる人たちもいて、彼らが近づくと村の人たちは軽く頭を下げてコツンと経典をタッチしてもらっていた。
どんな儀式なのかわかっていなかったけれどきっとご利益があるはずだからと、コツンをお願いする。
思わぬセレモニーとの遭遇に、ドイツ人サンドラは写真を撮るのに夢中になり過ぎてなかなか戻ってこず、頼んであったあつあつのスープがすっかり冷めてしまっていた。

腹ごしらえも済んで、あとはパンゴン湖へ一直線に向かう。
快調な走りを続けていると、山の重なりのあいだから真っ青な水が顔を覗かせた!
すぐさま山の後ろに隠れて見えなくなってしまったのだが、ちらりと姿を見せて期待を膨らませるなんて憎いことをしてくれるものだ。
心待ちにしていた全景は、しばらく走って山をかわしたあとに眼前に広がった。
なんなんだ、この青のグラデーションは。本当にすごい、美しい!
湖面を見つめる分にはどこか南の島にやってきたのかと思うほどで、手前は透明なのに少し離れたところに目をやると深さによってさまざまな青を見せてくれる。
でも顔を正面に向けると雪を抱いた岩山がバックに控え、そうだった、ここは標高の高い山のふもとだったと思い出す。その証拠に、湖の水に触れたらきんと冷たかった。

高いところに登ったらきっともっとよく見えるだろうと、夏のあいだだけオープンする湖の真ん前の簡素な宿に荷物を置いたら、裏手にそびえる砂利で覆われた山に上がる。急斜面で、なおかつ砂利のせいで不安定な山道は滑りやすく、思うように進まない。
まだそれほど高いところまで来ていないけれど、待ちきれなくて振り返ると水際で見るよりもっと青のバリエーションが豊富な美しい湖がパノラミックに広がっている。
やっぱり高いところで見ると全然違う。よし、もっと上に、と思っていたら雲が出てきて太陽が見えたり隠れたりを繰り返すようになった。
湖のほうを振り返ると、せっかく登ったというのに湖に雲の影が写ってちっとも青く見えなくなってしまった。

山を降りて湖の周りを歩き始めると風がだんだん強くなり、急に冷えてきた。
強風を真っ正面から受けて歩きづらいし寒いし、空の色はどんどん暗くなるしで一度宿に引き返すにした。
ただいま16時過ぎ。
戻ったところでほかにやることもなく、せいぜい昼寝するかチャイを飲むかぐらいの選択肢しかない。さすがに1泊2日は長すぎたか。よほどの湖好きかゆっくり静養したい人でもない限り時間を持て余してしまいそうだ。

天気が回復すれば夕暮れ時には赤く染まった湖が見られるかもという淡い期待を抱きながら、それまでチャイでも飲んで待ってみようとレストランに入る。
するとインド人ライダーの集団を率いてきたラダック人ガイドがいたので、彼とおしゃべりをして時間を潰すことに。
ラダックについて気になっていたことを質問していろいろと教えてもらっていると、ふと「明日はダライ・ラマの誕生日だよ」と言う。
聞けば、レーのすぐ近くにある街チョグラムサルではお祝いのセレモニーがあるらしく、高僧のスピーチやらライブやらさまざまな催し物が行われ、チベット人やラダック人がたくさん集まってにぎやかに祝うのだそうだ。
そういやチョグラムサルって行きに通ってきたな。ということは帰りも通るはず……。
思ったほど空は焼けず、多少は収まったものの風も相変わらず強く、湖面は黒っぽく風波が立っていて、昼間に見た南の島風な面影はどこにもなかった。

だったら、夜の湖と星空を満喫しよう。
ここなら民家の灯りや街灯に邪魔されることなく見えうる限りのたくさんの星が空一面に広がり、生涯にまだ数回しか見たことのない天の川だって拝めるかもしれない。
ところが満月2日前の空は月の光が強すぎて、これまた期待したような満点の星空とはいかなかったが、周りを取り囲む山々が月明かりに照らされてぼんやり浮かぶ様はとても幻想的だった。

翌朝、日の出直後の湖を見ようと早起きする。
しかし湖の向こうに立つ山から出てくる太陽の光はかなり強くて、湖に影を落としている。朝食を済ませた頃にようやくいい色に変わってきたぞ、と思ったところでタイムアップ。出発の時間となってしまった。
うーん、もっとさまざまな青の表情を楽しめたらよかったのにな。
ちょっぴり物足りない感じもするが、チェコ人のエヴァが途中で見たチムレイという村の、丘の上に建つゴンパに寄りたいとドライバーにお願いしているのを聞いたら思いがけないおまけに出会えたような気になって、なんだか心がうきうきしてきた。
と、前方に停車しているジープを発見。
故障かな? と思って降りていくと、道端にマーモットがいてぽりぽり何かを食べている。
ひとしきりマーモットと戯れて満足したインド人グループがその場を去り、独占状態でかわいらしいマーモットの仕草を楽しむ。
このときいちばんうれしそうに過ごしていたのは、寡黙で必要事項しか話さないドライバーだった。

放牧しているヤクの脇を通り過ぎ、大麦畑の緑とマスタード畑の黄色の鮮やかな色が一面に広がるようになってきたら、チムレイのゴンパはもう目と鼻の先、のように思えたのだが……。
見えてからたどり着くまでが意外と長く、山に沿ってぐるぐるとカーブを走り続けてようやく到着。

広い本堂に入ると、色彩豊かで独創的な壁画の数々が壁を埋め尽くしている。仏を描いたものよりも、ちょっと気味の悪い感じがするけれど個性的な地獄絵風が好きで、ついそちらばかり熱心に見てしまう。


あとはレーへ戻るのみ、なのだが、我々だけは途中のチョグラムサルで降ろしてもらって、ダライ・ラマの誕生日の様子を見ていくことに。
前に通ったときにはただの野原に見えた広場に、たくさんのテントが張られている。青空の下に輝く白いテントの数々は、まるで野外フェスだ。

そういやまだお昼を食べていなかった。どこか食べるところは……、と思ってテントの中を覗くと、大きな鍋がいくつかとたくさんの食器を並べているところが何カ所かあったので、どの食堂にしようか迷った挙げ句に近くにいた女性に「どんな食べ物があるの?」と尋ねて敷きものの上に座る。
「チベタンフードならあるけど」と言うので、それをお願いする。たっぷりのごはんと、ティンクと呼ばれるじゃがいもの煮物や野菜のおかずを出してもらってさっそくいただく。素朴だけれど体に染みるやさしい味はスプーンを握る手に休む暇を与えてくれず、おいしいものだからついついかっ込んでしまう。
喉が詰まるので「バター茶飲みたいんだけど」と追加オーダーをして、ご飯粒一粒も残さずにしっかり完食した。

おなかも満ちたことだし、そろそろ行きますかとお会計をお願いすると、なんと、ここは食堂ではないことが判明。おめでたい日ということで食事を持って集まってきている家族の輪にずけずけ入っていって、勝手に食事をごちそうになってしまっていたのだ。
早とちりして確認もせずに食堂だと思い込んでしまったなんて、ああ恥ずかしい!
なのにお茶が欲しいとかわがまま放題で、もう顔から火が出る寸前だ。
ちょっとだけでも受け取って、とお金を渡そうとしてもいらないの一点張り。どうしよう。
さすがにごちそうになりっぱなしでは申し訳が立たないからとカバンの中をごそごそ探り、おやつで持って来ていたクッキーをなんとか受け取ってもらった。
それからはテントだらけの広場を歩いて、のんびり思い思いに過ごしているのを見て回る。
大切な日なのでちゃんと民族衣装を着ている人や何もしなくても満足そうな顔を浮かべている人を見ていると、なんだかこちらもニコニコ楽しくなってくる。

とあるテントでは、チベット人の主食であるツァンパをこねながら、超重量級のターコイズのネックレスをしているおばあちゃんたちがおしゃべりの真っ最中。その輪に加わりたくなって話しかけると、突然の外国人の訪問がおかしいのか何なのか、笑いっぱなしのおばあちゃんたち。
「ツァンパを食べてごらん、アッハッハ」「写真? 撮ってもいいよ、アッハッハ」「バター茶飲む? アッハッハ」
絶えずこんな調子で、吊られていっしょに笑っていたら自分でも何がおかしいのかわからないけれど笑いが止まらなくなってしまった。

ダライ・ラマを慕う人々の、あたたかくおおらかな心に触れることのできた素晴らしい1日となった。
もし日帰りでパンゴン湖を訪れていたら、同じように青い湖には感動しただろうけれど、こんなに愉快でステキな出会いはなかったのかもしれない。
そう思うと暇を持て余した昨日のことなんてすっかりどうでもよくなってしまった、パンゴン湖1泊2日ツアーだった。



大きな地図で見る
2009.7.6 パンゴン湖 / Pangon Tso

Join the discussion 7 Comments

  • onishi yuya より:

    ラダック、僕もいつか行ってみたい。

  • スミサト より:

    ■onishiくん
    インド経験のあるonishiくんも、ラダックならまた楽しめること違いなし。
    同じ国とは思えないほど文化も人も違ったよ。
    好きな地域の1つになりました。

  • ryo より:

    素晴らしい写真ばかりだね。
    すごすぎてため息ばかりです。
    いつか行かねば。

  • hana より:

    ご無沙汰です(^^
    月の光が強すぎて星が見えない。という一文に衝撃でした。
    何しろ、自然に囲まれての時間の過ごし、現地の人達に思いがけず癒される経験、羨ましい限りです。
    身体に気をつけて、旅を楽しんでくださいね。
    ブログ更新、楽しみにしてます。
    東京の、殺風景なオフィスより(^-^

  • スミサト より:

    ■ryoさん
    ラダックはひたすら絶景だったよ。
    移動は結構ハードだけれども、充分に価値がある。
    絶景慣れしてしまうから、何回か訪れるとかも良さそう。
    全て見切ることは出来なかったし、早くもラダックはいつか再訪かも。(笑)
    ■hanaさん
    硫黄島の皆既日食は、暗すぎて星が見えたみたいだね、しかも季節が違う星が。凄い!
    ある意味、逆みたいな感じかな、皆既日食とでは規模が違いすぎるかもしれないけれど。満月近い明るさって日本でもビックリするよね。

  • Rin より:

    あはは、すごいずうずうしいお客さんやったんですね。でも相手も御土産話ができてよかったんじゃないですかね。
    しかし、絶対に日本で食することは不可能なような食事がたくさんでてきてうらやましいです。
    楽しんで無事帰ってきてください~

  • かな子 より:

    ■Rinさん
    もう、それはそれはずうずうしいですよ(笑)。
    でもまったくいぶかしがることなく受け入れてくれたことには、ただひたすら感謝感謝です。
    ごはん、本当においしかったです。なんというか、肉じゃがみたいなそういうぬくもりのあるおかずたちでした。