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巨匠の建築がインドで花開く

2009/07/13


曜日の壁に阻まれた。いや、曜日に注意し忘れたのがいけなかった。
チャンディーガルに到着したのが金曜の正午過ぎ。そこから宿を探して、チェックインして、インフォメーションで情報収集をして、なんてやっていたら時計はすでに14時を回っている。
まずい、あと3時間しかないのに3棟も見ることができるだろうか。
ル・コルビュジエの作品群が一堂に揃ったセクター1は、キャピタル・コンプレックスと呼ばれる政府機関が集う場所のため許可証を発行してもらわないことには中に入ることはおろか、近づいて見ることすらできない。
しかも土日は休みだから本日中に見終えなければ、月曜まで待たなければいけない。
とにもかくにも、まずは許可証の手続きだ。


当初、チャンディーガル建設は別の建築家によって進められていた。
しかし、不慮の事故でこの夜を去ったことで計画がストップ、急遽新たな建築家の選定に入ったインド政府により選ばれたのがル・コルビュジエだった、といういきさつがある。
チャンディーガルの市街地は、セクターと呼ばれる長方形のブロックが格子状に並んでいるので地図を見れば目的地への行き方がすぐわかる。
しかし建物の一つひとつが大きいせいか、歩いても歩いてもまったく距離が縮まった気がしない。
モータリゼーションを見越してつくられているだけに車道は広くて快適に運転できそうだが、移動手段を持たないツーリストにとっては目的地までの道のりが果てしなく遠く感じられる。
インフォメーションのあるセクター17から歩いて20分強、やっとセクター9にある許可証を発行してくれるDepartment of Tourismにやってきた。
所定の用紙に必要事項を記入しパスポートを提出して、あとは所長のサインをもらえば完了、というところまで来て所長が一言つぶやく。「今日だけじゃとても無理だね、来るのが遅すぎたよ」
やっぱり厳しいか……。それでも3カ所すべての許可証をくれたものの、有効期限は本日のみ。
もしふたたび訪れたければ月曜に改めて発行してあげるから、とにかく急いで、と送り出してくれる。
小走りにDepartment of Tourismを出たら走行中のオートリキシャーを止めて、この値段でセクター1に急いで、お願い、と頼んで後部座席にさっと乗り込む。
ヴィダーン・サバー(議事堂)とハイ・コート(高等裁判所)は見学時間が限られているらしいことが下調べでわかっていたので、恐らくいつでも見られるであろうセクレタリアート(行政庁舎)へ向かってもらう。
セクター1へ入る道路すべてにライフル銃を携えた軍人が配備されていて、警備の厳重さが伺える。
許可証を見せて敷地内へと進み、別棟のチェックポストで先ほどの許可証と引き替えに内部見学用の許可証を別につくってもらい、フレームに収まりきらない巨大なセクレタリアートがどんどん近くなってきてようやく中に入れる、と思ったら、建物入口で男女別々に分かれての分かれての念入りな荷物検査とボディチェック。
さらにある一室に連れていかれ、ノートに名前や訪問時間などの情報を残す。
これだけさまざまな関門があったら確かに時間が足りないと言われても仕方ない。妙に納得していると案内をしてくれる若い軍人がやってきて、では行きましょう、と促す。
丁寧な応対は好印象だが、銃をふたつもをぶら下げた後ろ姿にはちょっぴり緊張が走る。
最後にもうひとつ、いかにも役所的な部屋で何かの手続きをし、これでようやく見学できるようになったようだ。
エレベーターで最上階へ向かい屋上に出ると、キャピタル・コンプレックスの各建物が見渡せる絶好のポイントが待っていた。
風に吹かれながら、全体の位置関係がわかる素晴らしい展望スペースでゆっくりじっくり一望する。
写真を撮るあいだは少し離れた位置に立って待っていてくれる若い軍人の気遣いは素晴らしいが、中へ戻る際にはくれぐれも内部は撮影しないように、と釘をさすことを忘れず、ちゃんと監視されているんだと実感する。

帰りはエレベーターを途中で降りて、屋上から見えた地面に斜めに突き刺さったような棟の中にある赤や青、黄色のペンキで彩られたスロープを歩いて下って、見学はこれにて終了。
セクレタリアートの外へ出て見送ってくれた軍人にお礼を言って時計を見ると。17時。あぁ、やっぱり全部は無理だったか。
曜日の確認忘れというツメの甘さを反省しつつ、でも許可証の手続きの仕方もわかったし、各建物の外観を撮影するのに最適なタイミングも掴めたし、下見ついでにひとつ訪問できたと思えば上出来だと思うことにしよう。
この旅のいちばんの本命スポットだもの、きちんと納得いくまで見られなかったら意味がない。

内部潜入はダメでも、外観だけは見てから帰ろうか。
オレンジの日差しに包まれたキャピタル・コンプレックスにはまだ昼間の暑さが残るものの、歩くのがだいぶ楽になった。
巨大な扉に描かれた宇宙の真理を感じさせる絵が印象的なヴィダーン・サバー、直射日光を遮るありがたい休息場所の日陰の塔を経由して、オープン・ハンドのモニュメントに到着し、ここでしばし休憩。
コンクリートの壁に囲まれた広場は音がよく響くので、マイクなしで演説してもきっとよく声が通るだろう。
そして雲ひとつない青空を背に広場全体を照らすように開かれた手を階段に座って眺めていると、おや、手の向きが変わった。風の仕業か。

最後にハイ・コートの外観を写真に収めたら、またあさって、とキャピタル・コンプレックスにしばしの別れを告げる。

週末。セクター14にある従弟のピエーヌ・ジャンヌレ作のガンディー・バワン(ガンジー記念館)を見たあとに、隣のセクター12へ足を伸ばし、コルビュジエの手がけた建築学校を見にいく。

こちらはコルビュジエが世界的に有名だからてっきり建物自体も市民誰もが知っている存在だろうと思っているが、実際は同じ敷地の警備員ですらわからないという状況。しかも英語を話さない人も多く、道順を聞いているのにまったく伝わらず、もうお手上げ状態。
結局は地図と勘を頼りに、なんとかたどり着く。
コンテンポラリーアート的エントランスを持つ平屋建ての学校は開いてはいるものの、がらんとしていて人の気配がほとんどない。
中を見るにはどうしたらいいだろう。入口近くのオフィスにも誰もいない。
人がどこかにいないか探しながらずんずん中へ進むと、事務局を見つけたのでさっそく直談判。「建築が好きなので、ぜひ見せてください」
あっさりとオーケーが出たことに喜んだのも束の間、ほとんどの部屋に鍵がかかっていて、教室内が見られない……。
それでも廊下に並ぶ原色に塗られたドアの大きさひとつとっても、建物の高さだとか隣に来るドアとの間隔だとかを計算された上でのことなのだろう、ただそこにあるだけなのに気持ちよいバランスと感じる美しさを放っていて、思わずうなってしまう。

心待ちにしていた平日が到来。
早起きしてDepartment of Tourismの開く9時半頃を狙って訪れ、再度許可証をつくってもらったら2度目のセクター1へ。
工事中の現場脇をすり抜けてハイ・コートにやってきたら入口に並んで座っている迫力ある警備員にすべての荷物を預け、階上にあるオフィスで入所許可証を作成してもらい、荷物を引き取りに行って、さあ見学開始。
ゆるいジグザグを描いて延びるスロープを上っていく途中にちらちらと、ヴィダーン・サバーが見えてくる。
仕切りに施された有機的な楕円を通して見るのもまた一興、万博会場にあるパビリオンを巡っている気になるほど自由な造形に満ちた眺めを楽しめる。

1階に下りて建物裏側に回ると9室の法廷があり、部屋の前のベンチに腰掛けて何かを待つ人々、対照的に急ぎ足で通り過ぎるスーツ姿の人など、どこか役所らしい空気が漂う。
ちょうどいちばん奥に開廷中の1室を見つけたので、邪魔にならないように中を覗く。
たくさんの人がぎっしり詰めかけた法定内には、正面の壁一面に巨大なウールのタペストリーと、若かりし頃弁護士をしていたガンジーの写真が掛けられている。
隣の部屋は改装中のようで、入口からちらりと様子を伺うとおいで、と手招きしてくれる。
さっきより近くでタペストリーを見ると、全体のテイストは同じだけどさっきのとはほんの少しデザインが違う。
ほかの部屋にあるものもどれひとつとして同じものはなく、ただ共通していると感じたのは、場の空気が冷たく重くなりすぎないよう、タペストリーのあたたかみで中和しているのかもしれない、ということ。

外観でいちばん目を引く大胆なパステルカラーの使い方も、およそ裁判所らしくないやわらかいイメージだ。
好きなタイプの色ではないけれどこのスペースに限っては例外で、どんな切り取り方をして写真に撮っても絵になってしまう不思議な空間に、時間を気にしつつもじっくり向き合って満喫してしまった。

正面にヴィダーン・サバーが見えているのにここから広場を通って向かうことはできないため、一度公道へ戻ってセクレタリアート方面から目指さなければいけないのが少々面倒くさい。
愛想のいい警備員に指さされたメンバー用の入口をくぐると、受付の男性が慣れた様子で「荷物はここに置いて。写真はダメね。さあ、行くよ」と鍵を片手にさっさと前を歩いていこうとするので、慌ててそのあとをついていく。
厳重に施錠してある鉄格子みたいな巨大な扉を開けて、灯りのついていない建物内を足早に進み、階段を上った先にあった部屋のドアを開けると天窓の光にぼうっと照らされた議事堂の内部が目に飛び込んできた。
国会中継で見る日本の議事堂とは大違いのユニークな議席の配置、さまざまな色で描かれたアートっぽい壁の模様に心が躍る。
ペイントではない、こちらの立体模様には何か仕掛けが? 壁に沿って列を成す黒いぶ厚い板が気になったので尋ねたところ、音を反響させるためのクッションだという。
写真撮影ができず、電気も点いていないので薄暗く、といった状況ではあるが、この壮大な空間を独り占めして見ているんだと思うとなんとも気分がいい。
正味10分ほどの短時間見学。しかし、チャンディーガルにあるコルビュジエ作品の中でもっとも強烈なインパクトを受けた。
建物の外にあるポールがいくつも続いた回廊のシュールな感じも、またよかった。

そろそろお昼時。でもこのまま流れに乗ってすべて見てしまうことにして美術館や博物館といった文化施設の集まるセクター10へ。
到着して向かったのは美術学校。
建築学校によく似た外観だが、屋外に置かれた学生の作品らしき彫像や石膏像がそれらしい雰囲気を醸し出している。
前回に引き続き、その場で直談判して見学させてもらう。
運のよいことに今回はほとんどの教室に鍵が掛かっておらず、中には見慣れないテーブルや作業台とともにつくりかけの作品がそのままになっていて、教室そのものがコルビュジエの建築とコラボレーションしたオブジェのように見えてくる。


チャンディーガルを回りながら、2年前、ブラジリアを巡ったときのことをふと思い出す。
ほとんどあのときと変わらないな、と思ってくすっとしてしまう。
このふたつの都市には似ている部分も多いし、もちろん違うところもたくさんある。
だけど、建築を見たいがために足がぱんぱんになるまで歩いたり、サイクルリキシャーとの面倒くさい交渉を何度も繰り返したり、そんな手間が記憶の奥底に沈んでしまうほど、建物に到着した途端に喜びとうれしさと衝撃と感動で心が埋め尽くされてしまう。
建築が好きだから肯定的に見られる、というのもあるだろう。
世の中には都市計画の失敗作だという声もあるけれど、良くも悪くもこのふたつの都市には人の心をかき回していろんな感情や考えを巻き起こす力を持っている。
人の心に作用する都市。
それ自体が成功か失敗かというよりも、その存在を通じてほかの都市は何がよくて何が足りないのか、そんな問いかけをしてくることもどうやら惚れ込んでしまった理由のひとつかもしれない。



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2009.6.23 チャンディーガル / Chandigarh

Join the discussion 6 Comments

  • やぎちゃん より:

    ほんとに写真上手に撮られますよねーすごい!

    許可証取りは自分も苦労しましたね。バスターミナルの近くで取れると聞いてたのに、自分もセクター9で取るハメになりました。

    なんというか全体的に建物の屋根がすごく印象的ですよね、
    モニュメント的なんだけど、それだけで終わってないといいますか。内外での自然の力?をうまくいなしてるなー
    という感じがします。空間的にもおもしろいですし。

    格子グリッドの街並みは、距離を果てしなく長く感じさせるのはすごく共感です。んで軍人の銃もこわい。笑

  • ひょう  より:

    コルビュジェの建築物は見ごたえがありますね! 先日テレビで、菊川怜が、スイスとフランスのコルビュジェの足跡を訪ねる旅を流していました、残念ながらインドのことはやってなかったですが、是非見てみたいですね
    9月にスイスに行く予定ですので、チューリッヒのゴルビュジェセンターを訪ねてみたいと思います。

    まだまだ旅は続くのでしょうか?インドは広い国ですから、時間がいくらあっても足りないのでしょうね?
    日本では知られていないインドをお二人のブログを通じて知ることが出来ましたし、これからも楽しみにしています。体に気をつけて旅を続けてください!!

  • choki より:

    見とれちゃう建物がずらり、ですね。
    うっとりしてしまいます。
    そして相変わらず精力的なおふたり。
    旅しながら、これだけブログをまとめるのって
    エネルギーと情熱のたまものって気がします。
    私は取材名目ですが、たかだかひと月で体力的に
    かなり消耗してしまいました。
    明日日本に戻ります。

  • かな子 より:

    ■やぎちゃん
    やぎちゃんも許可証取得で振り回されましたか。
    念のためホテルの従業員にも聞いてみたけど、「インフォメーションで取れるよ」なんて偽情報を言うぐらいだから、いったいどの情報を信じたらいいのか、という感じでした。
    インドのコルビュジエ建築は、ブリーズ・ソレイユ(日よけ)もまた効いていますよね。
    デザインとしても面白いけれど、ちゃんと機能性も持たせてあるという。
    ■ひょうさん
    本場スイスでコルビュジエ建築を見られるなんて、とてもうらやましいです。
    食べ物もおいしいでしょうし、きっと素晴らしい旅になるでしょうね。
    インドは本当に広いと身をもって知りました。
    何カ月もかけて回っているというのに、時間がなくて飛ばした街も結構ありました。
    ひとつの国なのに言葉も違えば文化も違うというのは、インドならではの魅力かもしれませんね。
    ■chokiさん
    英国の旅ももう終わりですか。
    旅といっても、取材がメインだとかなり忙しいスケジュールだったんでしょうね。
    建築といったら、ヨーロッパは本当にいろいろあるだろうからいつかは……、と思っていますが、いつになることやら。

  • SPUTNIK より:

    突然のコメント失礼致します。
    こちらのチャンディーガルのブログ記事がとても詳細で、
    当方の稚拙なブログでご紹介させていただきたのですが宜しいでしょうか?
    リンクフリーとの事でしたが、念のために・・・・。
    もしも問題があるようでしたらご連絡いただければ幸いです。

  • スミサト より:

    ■SPUTNIKさん
    ブログで紹介頂けるとのこと、ありがとうございます。
    問題はありませんので、よろしくお願いいたします。