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暑すぎるヴァラナシから、アーグラ、デリーと逃げるように急ぎ足で移動して辿り着いたのはヨガの本場、リシケシュ。
ヒマラヤ山中にあるから少しは涼しいのかと思いきや、こちらも昼間はなかなかの暑さ。
それでも周囲を山に囲まれているためか朝晩には過ごしやすいと感じられるまでになったから、だいぶ気分も楽になってきた。
ヨガのクラスに参加したくてやってきたのだけれど、もうひとつ、気になる場所があった。
かつてビートルズが滞在していたというアシュラム、それをぜひ一目見たくて。


南インドのヨガの中心地はマイソール。
しかし、南を回っていたときにはもうだいぶ暑かったのでヨガをやるなら北にあるリシケシュで、と思ってきたのに当てが外れた。
しかも夏休みシーズンのためか巡礼にやってきているインド人観光客が多く、外国人ツーリストの姿がさほど多くないというのも予想外だった。

宿を取ったのは、にぎやかな中心部から20分ほど坂を上ったところにある小さな小さなツーリスト村、ハイバンク。
数件の宿兼レストラン、商店、インターネットカフェがある程度で、喧噪から逃れゆったりと過ごすことができる。
そして宿によっては朝と夕の2回、ヨガの講師を招いて教室を開いているところもあり、わざわざ中心部のヨガセンターまで出かけなくてもいいというのがありがたい。
泊まっている宿とは別の教室に参加するのも自由なので、雰囲気や価格、時間帯に応じて選べるというのもよい。
すっかり鈍りきった体をしゃきっとさせようと、近くでやっている朝のクラスに参加する。
開始時間前に着いたヨガルームにはすでに先生が体をほぐしながら待機中で、壁の模様や広さなど室内の雰囲気もばっちり。
始まるまでおとなしく待とうかと先生の前に座ると、突然難しいアーサナ(ポーズ)を決めたまま静止。
それって、すごく難しいはずじゃ……。
日本でヨガを習っていた時期があるので見たことはあるけれど、まさかこんな高度なことをするわけじゃないよね、と不安がよぎる。
ほかにふたり参加者がやってきて、8時半にスタート。

先生のしているアーサナを見よう見真似でやってみるもなかなか体が言うことを聞かず、関節のあちこちがギシギシと音を立てている。
日頃の運動不足でいかに全身が錆び付いているか、いやでも実感する。
しかし、それをさらに正しい手の位置、足の位置に近づけるように先生がチェックして直すものだから、痛さと悲鳴をこらえるのに一生懸命。
自分の体を観察して、と言われてもそんな余裕はちっとも持てない。
太陽礼拝という伝統的な連続アーサナや呼吸の仕方など何度も同じものを繰り返して、一段落すると休憩とも言えるアーサナでリラックス。
これがとても心地よくて、うっかりすると眠りの世界に行ってしまう。
たっぷり2時間、体を伸ばしたりゆるめたりをしてヨガを終えると、体も軽くなったが心もすっきりした感じがする。
つねに今後のルートだとか今夜のごはんをどうしようとかいうことを考えているためか、何も考えず、というよりついていくのに必死で何も考えられなかったのだけど、そんな無心のひとときを持てたことで余計な心配事を忘れさせてくれたのかもしれない。
たくさんのアシュラム(修行場)があるリシケシュ。
お試しで気軽にヨガを受けるツーリストがいる反面、アシュラムに長期滞在して規則正しい生活をしながらじっくりヨガに取り組もうとやってくる人も多い。
かつてビートルズもそんな日々をこの街のとあるアシュラムで送っていた。
今はもう誰もいない、伝説とも言えるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギのアシュラム。ここで「White Album」の楽曲の多くが生み出されたという。
ガンジス川に沿って延々と歩いていくと、街外れにそのアシュラムはある。
高い塀に囲まれているがちらっと見える建物はだいぶ傷んでいて、ずいぶん前からうち捨てられいることを語っている。
森林局の管理課に置かれて開放されているという情報も空しく、朽ち果てた入口にはNO ENTRYの文字に、鍵までかかっている。

しかしさすがはインド、中から森林局勤務とは思えない風貌の門番らしき人が現れて「1人50ルピー」と言い、あっさり中に入ることができた。
入るまでは怖い顔だったのに、支払いを済ませると右の方に行くとヨガホールがあるよ、なんて親切に教えてくれたりする。
言われた通りにゆっくり坂を進んでいくと、小さな石を組み合わせたほこらのような形の修行者の居住スペースが出てくる。
草木に浸食されてきていて、もう遺跡レベルに達しつつあるとも思える佇まい。
中に入ると、1階には居間のようなスペースとトイレ・シャワーが、2階の洞窟のような空間は瞑想部屋として使われていたのだろうか。

それぞれの建物には番号が振ってあり、ジョン・レノンが好んだ数字9のついたものももちろんあった。
「White Album」の1曲、Revolution 9を思い出す。
あの不思議な曲はもしかしたら、ここでの滞在がきっかけになっているのだろうか。

広大な敷地をさらに奥へ進むと、さまざまな建物が出てくる。
ぼうぼうの草に隠れてしまいそうな小さめの建物が無数にあり、マンション並みの大きさの建物も数棟ある。
そのうちのひとつに侵入、もうここまで来ると見学というより廃墟探検だ。
鉄筋がむき出しになった部分もあるものの、コンクリート造なので建物自体はしっかりしているが、建具は当時の面影もなくどれもぼろぼろ。
割れたガラスが床に散らばり、なぜか片方だけ残されたサンダル。
屋上に出てみると、先に探検していた西洋人たちがぼんやり座っている。
ここからはアシュラムの敷地全体を見渡せて、少し先にはガンジス川も見えるという素晴らしい眺めだ。

この跡地を公園やストリートチルドレンの保護施設にしようとする動きもあるようだが、どれもまだ実現には至っていない。
このままにしておくのはもったいないが、ビートルズ以外にもさまざまな著名人が滞在していたというこのアシュラムを今後どう蘇らせるか。
歴史的価値を失わずにリシケシュの新たな魅力として生まれ変わることを心から願って、日の光がさんさんと降り注ぐ明るい廃墟を後にする。
帰り道、ヴァラナシよりもずっときれいなガンジスの流れに足だけ浸してみる。
チクリと痛みを感じるぐらいの冷たい水に、目が覚めるような思いがする。
まるで、今まで廃墟をさすらっていたのが夢だったかという気分になるほどに。


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2009.6.18 リシケシュ / Rishikesh

Join the discussion 3 Comments

  • やぎちゃん より:

    こんにちは!

    リシケシュいいですねー、
    ガートのにぎわいはどこでも一緒なんですね、
    すごくいい。水も全然きれいなようで。

    アシュラムがすごいですね、ほんと遺跡レベル・・・表面のテクスチャもかっこいい。
    この暗がりの中での木漏れ日がすごく印象に残りました。
    こういった建築家が関わっていない建築は興味ありまくりですね。笑
    この光と影の二面性?がインドの世界観と結びついているように思えます、カースト制もその例かもしれません。
    アーマダバードでもコルビュジェの建築を見られてると思うんですけど、
    結構通じるものがありませんか??

  • くろぶち より:

    お久しぶりです。
    やっぱりインドは最高ですね。
    リシュケシュ!
    僕もヨガしながら日ごろのコリをほぐしたいです。
    この後はさらに北へ行くのでしょうか。
    是非ダラムサラ、そしてレーに。
    楽しみにしています。

  • かな子 より:

    ■やぎちゃん
    リシケシュに行くために寄ったハリドワールでも、ガートは大にぎわいでした。
    人がぎっしりガートにいて、空きスペースがまったく見当たらないほど。
    ガンジス川というとどうしてもヴァラナシのイメージが強くて川の水は大丈夫かな、なんて思ってしまうけれど、上流になると色も全然変わるし温度も違うしで、新鮮でした。
    アシュラムはまさかここまで朽ち果てているとは思いませんでした。
    インドには有名無名問わず面白い建築があちこちで見られるので、それを辿る旅もまたいいかもしれませんね。
    でも、国土が広すぎてすべてを見終えるのはいつになるやら、って感じかもしれませんが(笑)。
    光と影の二面性、確かにそういう部分がありそうです。
    ■くろぶちくん
    ご無沙汰です!
    ボリビアで聞いたくろぶちくんのインド話(宿のドアがなくなって荷物が盗られた)でかなりビビっていたのだけれど、今のところ無事に旅しています。
    ヨガは運動不足の体にはかなりきつかった!
    でも終わったあとはスッキリ、気持ちよかったよ。
    日頃のコリ解消のために旅をするとしたら、次はどこになるのかな。

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