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「今日はいい日だ」。
雨がしとしと降る中、宿への道すがら先導してくれる少年が独り言のようにつぶやいた。
ツーリストである我々にとっては、荷物も服も濡れるからあまり歓迎したくない雨。
でも、周囲を砂地に囲まれた村で暮らす彼にとっては、暮らしに欠かせない水をもたらす大事な雨。
ジャイサルメール近郊の村、クーリーへはバスで約1時間半。
のんびりできるというガイドブックの一文に惹かれてやってきたこの村は、ヤギや牛やラクダとたわむれるにはもってこいののどかな場所だ。
そして、ラクダの背中に乗っかって砂漠へ出かけるキャメルサファリの拠点としてもよく知られている。


夕方、雨が止んだと思ったら今度は風が出てきて、地面に落ちているものを巻き上げ始めた。
空は変わらずどんより曇ったままだし、こんな天気でキャメルサファリに出かけたらさんざんな目に遭いそうだと、だんだん心配になってきた。
しかし、たまたま出会った村の青年と話していたとき、「明日の夜はきっと星がよく見えるよ、風が雲を動かすから」という彼の言葉が決め手となって、計画を変更することなく翌日出かけることにした。

翌朝起きてみると、雨がぱらついているものの空は昨日より明るくなっている。
このままいけば、砂漠で夕日も朝日も星空も楽しめそうだと、急にわくわくしてきた。
案の定、昼過ぎにはまぶしいばかりの日差しと青空が広がり、絶好のキャメルサファリ日和となった。

15時半を少し回った頃、いよいよスタート。
よいしょ、とラクダの背中にまたがると、案外胴体回りが太くて内ももがぴきぴきと軽く悲鳴をあげている。
しっかりつかまって、とガイドに促された直後に、ラクダは前足、次は後ろ足と段階を踏んで立ち上がる。
高い。
人間の頭のてっぺんより高いところに座っているから、今までに体験したことのない目線の高さにおののく。
最初のうちはその高さに慣れなくて、自分でもわかるくらいに肩に力が入りすぎてがちがちに固まってしまったけれど、案外揺れも少ないし、予想外の行動を取ってはらはらさせられることもないので、すぐに慣れる。
途中、井戸で水を汲み、数十分間ラクダに揺られてやってきたのは、ネムキドニという小さな村。


ここで暑い中がんばって歩いたラクダに水を飲ませ、今晩砂漠の上で寝るときに使う布団を調達する。
村の入口で一度ラクダを降り、ガイドではなく我々が引っ張って水飲み場まで連れていくことになったのだけれど、ラクダに声をかけると「わかったわかった」と言わんばかりにうなづいてくれるので一気に愛おしくなる。

準備が整い、ふたたびラクダにまたがっててくてく歩く。
道中、メスラクダに心奪われてよそ見を繰り返したり(ちなみに今回の一行はすべてオスラクダ)、気分が乗らなくなったのか急に歩くのが遅くなったりはしたものの、順調に今夜の寝床ポイントに到着。
まだ夕日が沈むまでは時間がありそうなので、チャイをつくってもらってのんびり飲みながらそのときを待つ。


そのあいだに、ガイドたちは着々と食事の準備を始める。

野菜オンリーの食事以外に、今回いっしょに参加することになった韓国人の強いリクエストにより、鶏肉とビールも登場することになっている。
その彼は自分でじゃがいもを持参していて、聞けば韓国のガイドブックには「キャメルサファリに参加するときにはじゃがいもを忘れずに」と書いてあるという。
ほかにもみかんや焼酎も用意済みだったのには、心底感心してしまった。
おかげで食事の時間はとても楽しく、おなかもしっかり満たされ、ほろ酔い気分の上機嫌で過ごすことができた。
そろそろまぶたが重くなってきたのでそろそろお開きにすることにして、布団をセッティングする。
テントでの就寝は経験ありだが、身ひとつで野外に寝るのは初めて。
頭上にはたくさんの星が輝き、ときどき落ちていく流れ星を眺めながらの睡眠。
あぁなんてステキなシチュエーションなんだろう。
メガネをはずすと見えなくなってしまうのが本当に残念、と悔しく思いながら、ぎりぎりまでねばって星空を見つめて、すとんと落ちるように眠った。

翌朝、目が覚めるとまさに朝焼けが始まりつつある瞬間で、寝転がったまま色の移りゆく様を見ていた。

その間にガイドたちは手際よく朝食の準備と、昨夜のゴミや布団などを片付け、てきぱきと帰り支度を始める。
もうラクダに乗るのも慣れたものと思っていたのに、またまたメスラクダを見つけてそっちのほうを見て動かなくなるし、道に生えている草を勝手に食べ始めて集団から取り残されるし、そうかと思えば急に走り出したり、なかなか一筋縄ではいかない帰路だった。

以前、メキシコで馬に乗ったときにさんざんな思いをしたので半日程度のキャメルサファリを選んだものの、これだったらもう少しラクダといっしょに過ごすのもありだったかな。
それぐらい、キャメルサファリは大満足の内容だった。

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2009.3.22 クーリー / Khuri

Join the discussion 6 Comments

  • かなめ より:

    キャメルサファリいいですね!満点の星空すごくうらやましい。
    私はモロッコで駱駝に乗ってきましたが、残念ながら1泊目曇り、2泊目雨になってしまい、夕焼けも星空もみられなかったのですよ。
    またリベンジする気満々ですけどね(^-^)y
    それにしても、らくだってかわいらしいですよね。あんなに大きいのに。なんてかわゆらしいめをしてるんでしょう

  • HANA より:

    砂漠!!らくだ!!星空!!

    あー。

    もぉ、本当に素晴らしいねー。
    しかも、テントとかじゃなくて砂の上に眠るの?

    寝床の居心地はどんな感じなんだろう。
    夜とか寒くないの?

    んー。
    いってみたい。

    死ぬほど暑くなければ。。笑

  • ヤスコ より:

    ゴロリしながら星空を眺めるのはステチだね☆
    2年前(?)にお寺でゴロリしながら流星を眺めていたのを
    思い出してしまったよ。
    あの時よりもさらに深い闇とキラキラした光なんだろうなぁ〜

  • 匿名 より:

    スミサトさんの写真のいいところは、
    風景の切り取り方や色の美しいところはもちろん、
    この写真の風景を体感してみたいと思わせてくれるところ。
    そしてかな子さんの文章が、もしかしたら私にもできるんじゃないかって気にさせてくれるところもすてき。
    やっぱりすごくすき。ふたりの旅行記。
    本にしてください。寝そべりながら読んでみたい。

  • ちゃき より:

    ギザでラクダに乗ったとき、あまりの大きさにすごく怖かったこと思い出しました。

    砂漠の砂と青空のコントラスト、大好き!

    実はね~結婚することになりまして(驚き??)
    新婚旅行、インドもいいいいいいっ!!!!
    って候補に入っちゃいました♪
    行きたいな~♪

  • スミサト より:

    ■かなめさん
    らくだ、大きいですよねー。
    僕はモロッコでチラリと乗っただけなんですが、サハラ行けたら最高ですね、もっと広大な砂漠を見てみたいって凄く思いました。
    モロッコは再訪したい候補の中でもかなり上位です。
    ■HANAさん
    砂の上に布団をしいて、座布団を枕にして寝るんだよ。
    夜は結構冷えて、シャツ、フリース、ウィンドブレーカー、布団を掛けても少し寒かった。
    でも最高だったよ、流れ星も見えた!
    ■ヤスコさん
    お寺の時、面白かったねー。
    あんな感じでボーッとしてたんだ、最高だったよ。
    光の館でぜひやりたいよね。
    ■chokiさん
    体感してみたいって思って貰えるのは凄く嬉しいです。
    chokiさんにも勿論出来ますよー、ぜひ旅先の候補に。
    ■ちゃきさん
    ななな、なんと結婚宣言!
    おぉぉー、オメデトウ!!!!!
    帰る頃には結婚しているのかな。
    詳しく聞かせてー!!!

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