ギリシャの隠れた宝石「パピンゴ」へ

2018/10/01
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9度目となった子連れ旅。
チビオトが小学校に上がってから初となる今回は、バカンスシーズン真っ只中のギリシャに向かった。

飛行機のチケットを取ったのは2月末。特別どこか行きたい場所があったわけではなく、今まで訪れたことのないエリア、かつ大人も子どもも楽しめそうなところ……と考えたとき、なんとなく浮かんだのがギリシャで、そのままエイッと決めてしまった。
それから、どこを回るか検討し始めた。以前から気になっていたのは、海に面した断崖絶壁の上に修道院が立つギリシャ正教の聖地、アトス山。しかし、600年以上前から女人禁制につき、家族全員で行くことができない。「遺跡」「エーゲ海の島々」「メテオラの修道院」といった有名どころ以外で、どこかグッとくるところはないか……と探す日々が続く。
やっと「ここだ!」と思ったのが、パピンゴという村。
知る人ぞ知る素晴らしい場所を「hidden jem」と形容することがあるが、パピンゴはその言葉がピッタリのところだと感じた。

しかし、この村について調べるのにはなかなか大変だった。
まず日本語で書かれた情報が見当たらない。英語のサイトはいくつかあるものの、地名の表記がpapingo、papigko、papingonと見事にバラバラで、どれが正しいかがわからない。とにかく英文のネット記事を手当たり次第に読み、旅のために購入したロンリープラネット記載の少ない情報とあわせて、イメージを掴んでいくよりなかった。
(余談だが、ロンプラ最新版では「ギリシャで訪れるべきTOP20」のひとつとして紹介されている)
どうやらパピンゴはギリシャ北部のザゴリ(ZAGORI)、もしくはザゴロホリア(ZAGOROHORIA)と呼ばれる、アルバニアとの国境近くの地域にあって、ここに向かうには週にたった1本のバスがあるだけ、ということがわかった。しかも、このエリアの住民を優先して乗車させるため、旅行者が確実に乗れるかどうかは定かではないらしい。

パピンゴ行きを諦めることも考えた。
でも、エメラルドグリーンの海に白壁と青い屋根の建物というギリシャのイメージとはまったく異なる、壮大なスケールの山々と石造りのかわいらしい家の写真を見たあとに断念するのは、なんだか悔しい。
そう思いながら引き続き調べているうちに、行くかどうかを検討する段階を飛ばして、行くための手段と周辺の見どころを探す感じになっていた。

さて、ギリシャ到着の2日後。私たちはアテネのレンタカー会社にいた。予約しておいた左ハンドルのオートマ車に、荷物を積み込み、日本から持参したブースターシートをセットして、いよいよ出発。都会の交通量の激しい道に、おっかなびっくり飛び出していく。
日本では月に1回運転するかしないかだし、海外でレンタカーに乗ったのは11年前のイースター島以来だ。
不慣れなラウンドアバウト(環状交差点)でもたついてクラクションを鳴らされた以外は、怖い思いをすることがなく、最高速度130キロの高速道路もなんとかクリアして、パピンゴの最寄りのインターチェンジまでやってきた。しばらくは片側一車線ののどかな道だったが、徐々に民家が少なくなり、道幅もどんどん狭くなる。
ナビとして使っていたグーグルマップに目をやると、ここから先はヘアピンカーブが連続するようだ。途中、何度か休憩を挟んだとはいえ、朝からずっと乗りっぱなし。チビオトは「ねえ、あと何分?」としきりに聞いてくる。

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黙々と運転していると、狭い山道の視界がパッと開けて、目の前に巨大な山々が姿を現した。
予想外の急な出現に、思わず「なんだこりゃー!!」と声を上げてしまった。あまりの迫力にチビオトは一言、「怖い……」。
あの山の麓が目的地、パピンゴだろうか。疲労感が漂っていた車内がにわかに活気づく。

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ヘアピンカーブはまだまだ続く。遠くから見るとひるんでしまうが、実際に走っているときは、ハンドルをせわしなく動かすうちにいつの間にか終わっている。
正面には山、道路脇では草を食む馬。そんな光景を見ながら快走し、ようやくパピンゴに着いたのは、アテネを出発して約8時間後のことだった。すでに17時を回っている。
村の入口で到着を待っていてくれた宿のオーナー、ヴァシリスさんが開口一番「Welcome to end of the road!」と笑いながら右手を差し出してきた。

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ふたつの村から成るパピンゴ。私たちが宿を取ったのはメガロパピンゴで、さらに2kmほど進んだところにはミクロパピンゴがある。
ヴァシリスさんが前を歩き、徐行しながらついていく。石畳の道の両脇には石造りの家々が並ぶ。ブロック状の石を積み上げた壁と、薄くて平べったい石を重ねた屋根。塀はもちろん石垣だ。頭に思い描く外国の絵本に登場する山間の村が、そのまま目の前に広がっている。
背後には道中で見かけたあの巨大な山。5つの峰を持つアストラカ山という名だと、あとから知った。

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次の日の朝、ヴァシリスさんに今日のスケジュールについて相談したところ、パピンゴについてあれこれ教えてくれた。
私たちが滞在しているメガロパピンゴの人口は約100人。小さな教会と商店のほかに、レストランが10軒、宿は30軒もある。海外からだけでなく、ギリシャ国内からもたくさんの観光客がやってくるそうだ。
また、英語では「パピンゴ」という表記が多いが、「パピゴ」のほうがギリシャ語の発音には近いらしい。
「歩いていけるから、ミクロパピゴにも行ってみるといいよ」とヴァシリスさん。ここから2キロしか離れておらず、石でできた古道を行くと楽しいよ、とのことだった。

レクチャーが一段落したところで、ヴァシリスさんが不思議そうに聞いてきた。
「ところで、どうやってこんな秘密めいた村を知ったの?」
この宿に日本人が泊まるのは初めて。それゆえに、なぜここを見つけたのか気になったらしい。

身支度を整えて、さっそく出発。
舗装された車道を進むと、途中で水道の絵が描いてある看板を発見。
道路脇の砂利道の先に見えてきたのは、手水鉢そっくりの石の器。流れ出す水に触れたら、思ったより冷たい。チビオトに、冷たくて気持ちいいよと声をかけたら小走りでやってきて、歓喜の声を上げながら水と戯れて、その場から動こうとしない。
実は、出発してからずっと、彼はふてくされていた。
メガロパピンゴは標高960メートル。朝晩は冷え込むが、日中は意外と暑くて30度近くまで気温が上がる。湿度は低くカラッとしているから、日陰なら過ごしやすいのだが、さっきから日差しがさんさんと降り注ぐ中を歩いてきたチビオトはむすっとしていて、話しかけても「別に」と投げやりな態度だった。
水遊びでリフレッシュしてからは、人が変わったように、やたらしゃべるようになった。

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ふたたびさっきの車道に戻り、ゆるい上り坂をゆっくり進んでいたら、今度は細い石畳の脇道が見えてきた。
ミクロパピンゴと書かれた小さな緑色の看板が立てられている。ヴァシリスさんが、目印だと言っていた古道の入口に違いない。
そのままたどっていくと、眼下に古いアーチ状の石橋があった。はるか昔にはこの道がメインロードで、徒歩または馬に乗って通行していたという。
橋の下には川が流れていて、水遊びできるようになっている。水着を着てきてよかった。
さっそく水の中へ。水深は膝下程度。少し冷たいが、足を浸す程度ならさっぱりして気持ちが良い。
しばらくぼんやり佇んでいたら、水面に波紋が広がるのを発見。顔を近づけたら、正体はカエルだった。そっと近づいてキャッチして、チビオトといっしょに眺めてみる。体長3センチほどのこのカエル、「キバラスズガエル」という南ヨーロッパに生息する種類らしい。
(あとからあまり触るのはよくないと知った)
チビオトは葉っぱを投げて行方を追ったり、石を持ってきてダムを作ったりと忙しく動き回っている。水場があれば、子どもは一瞬で元気になる。

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小一時間ほど遊んでから、散策を再開。
古道を抜けた先は、またアスファルトの車道にぶつかり、少し歩いたらミクロパピンゴに着いた。
“ミクロ”の名の通りメガロパピンゴよりも小さい。村内は車の通行が禁止で、村の入口にある駐車スペースに停めなければいけないとのこと。
出発前、パピンゴの宿を探していたときにこちらに投宿することも検討していたが(惹かれるホテルがいくつかあった)、起伏に富んだ石畳の道を大荷物を抱えて歩くことを思うと……。子連れの私たちはメガロパピンゴでよかったと思う。ただ、より静かな環境でリラックスしたい人にはとてもよさそうだ。

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カフェに入って冷たい飲み物で一息つく。ここはアストラカ山により近いから、ダイナミックさがケタ違いだ。
開け放たれた窓からの涼しい風と窓の外の迫力ある絶景ですっかり元気になり、店を出てぶらつく。
ぶどう棚の小道や素朴な教会、石造りの家々など、絵になる風景がそこかしこにあふれている。皆で歩いているとき、チビオトがぼそっとつぶやいた「この景色を目に残さなきゃ」という言葉に、なんだかじーんときてしまった。

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滞在はせいぜい1時間程度だっただろうか。すっかり満足して、来た道を戻る。
最後にチビオトお待ちかねのロックプールに寄り道して、もうひと遊び。
森の中を歩いていった先には、奇岩に囲まれた天然のプールがあった。夏のバカンスシーズン真っ只中につき、パピンゴ周辺にこんなに人がいるのか!?と思うほど賑わっている。岩場から何度も飛び込む子もいれば、温泉のように長いこと浸かっているおじさんも。
それでは、とさっそく水に入ったら、冷たい。冷たすぎる。
大人は膝まで浸かってギブアップしたが、チビオトは嬉々として川岸からダイブしてキャーキャーはしゃいでいる。さすがに体が冷えたのだろうか。
数回繰り返したのち、岩に寝転がって日光浴したまま、しばらく動けずにいた。

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風邪を引いたら大変なので、適当なところで切り上げて宿へと向かう。
私たちの少し前を、一匹の犬が歩いている。ときどき振り返ってこちらをちらっと見て、距離が縮まるとまた歩き出す、というのを1キロぐらい繰り返しただろうか。しばらく付かず離れずの距離を保って歩いていたが、メガロパピンゴの近くまで来たら木の下で寝そべってしまい、動こうとしない。
「きっと道案内してくれたのかもね」
犬に手を振って、今日の楽しかったことを振り返りながら宿に戻る。
時刻はもう15時。お昼は食べそこねたし、午後のドライブの予定は明日に持ち越し。つい「時間が全然足りない」とつぶやいてしまう。
でも、その言葉には残念な気持ちはこれっぽっちもなくて、さっきまでのひとときがいかに充実していたかを、皆でしみじみ感じたかったのだった。

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旅音トークイベント【子連れ海外 14ヵ国の旅】

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たくさんの方のご来場を、心からお待ちしております!