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雪山越えて、チベットを感じる日々

2009/07/19


避暑客で溢れるマナリだが、真夜中2時だとさすがに人の気配はほとんどない。
これから約500km、ひたすら山道を走っての移動だから、このぐらいに出発しないととんでもない時間に到着することになってしまう。
車内で休もうにも、道はがたがた、カーブの度に遠心力にもてあそばれるから一向に眠れやしない。
仕方なく起きていると、窓の外には雪の回廊とごつごつした岩山。
これまでとはまったく違う風景に、今度は興奮して眠気が吹っ飛んでしまった。
絶景の連続に悪路だってなんのそのと思っていたが、体は急な変化に耐えられなかったようで、だんだん息苦しくなってきた。
深呼吸しても直らず、ついには軽い頭痛まで感じるように。まずい、高山病だ。
このルートでもっとも標高の高い5360mのタングラング峠あたりに差し掛かったときには、ずきんずきんと激しく痛み出し、ただ座っているのが精一杯だった。
頭痛に耐えること数時間、そしてマナリを出発してから22時間後の深夜0時。
ようやくチベット文化色の濃いラダック地方の中心地、レーに到着した。
よろよろと車を降りて、車の屋根にくくりつけていたバックパックを受け取ろうと天を仰いだら、天の川まではっきり見える極上の星空が広がっていた。


あれだけつらかった頭痛も、朝起きてみるとほぼ気にならないぐらいにまで収まった。
とは言えレーの標高は3505m、かなり高いところにいるのだから無理は禁物だ。
高地に早く体を慣らすためには、深く呼吸、こまめな水分補給、そして軽い散歩が最良の方法だというので、22時間ドライブの疲労が抜けきってはいないけれどレーの街へ繰り出すことにした。
こんなに青く濃く澄んだ空の下を歩くのは久しぶり。
空が近くなった分、日差しは相当強烈で肌には毒だろうけど、心はすこーんと快晴そのもの。
すれ違う民族衣装姿の街の人を見ているだけでも、これまでとはまったく違う世界に来たことが感じられて楽しい。

街の中心部にゴンパ(僧院)を見つけたので立ち寄ると、スピーカーから読経が流れている。
中を覗くと何列にも及んで並んでいる僧が熱心に経を唱えていその低く太くこだまする声はなかなか迫力がある。
しかし、列の後ろにいる小僧たちはおしゃべりやふざけあい、大胆にもマンガの貸し借りまで。そのやんちゃぶりを先輩の僧がたしなめるも、一瞬行儀よくしてすぐに元通り。
まだまだ遊びたい盛りだから無理もない。

僧院の外周をぐるりと囲んでいるマニ車を、参拝に訪れた人たちに混じって回しながら歩く。
民族衣装を着ておさげを背中のあたりでひとつに束ねているおばあちゃんの後ろ姿を追いかけているうちに、気がつけばもう1周終わっていた。
ちょっと休憩、と僧院正面の大きな木の下にある石段に腰掛ける。
すぐ隣には左手で手持ちのマニ車をくるくる、右手で数珠をひと玉ずつなぞるように送りながら祈る人。見回せばあっちでもこっちでも同じような光景が繰り広げられている。
ひとつの場所に大勢で集っていても、流れる時間は人それぞれ。一心に祈りたいときも、近くにいる人と話したいときも、気持ちの切り替えひとつですぐにどちらの時間へもワープできるのだから、彼らの集中力たるや素晴らしい。

次の日は体もだいぶ楽になってきたから、もう大丈夫だろう。とは思いつつも、ふたたびあのつらい頭痛が襲ってきたらたまらないから、あと1日はゆったり行動することにしよう。
比較的バスの本数が多い近場なら安心、ということでレー近郊にある、ゴンパがまるまる村になっているティクセまで行き、途中でシェイ王宮と要塞へ寄ってからレーに戻ってくるというプランを立てていざ出発。
ミニバスに揺られて約30分、ティクセの入口で降ろしてもらう。
だいぶ上のほうにあるゴンパを目指してスローペースで歩いていると、ふもとの小さな部屋から読経が聞こえてくる。薄暗い部屋で千の手を持つ仏像に見守られながら、室内には楽器の音色と声だけが響いている。3人の老僧侶のぴったり息の合った読経に耳を傾けていたら、ふわふわ心が宙に浮いているようないい気分になってくる。


でも、そんな気分もすぐに忘れてしまうほど、ゴンパへ向かう道のりは長い階段の連続で息は上がりっぱなし、足も思うように進まない。
やっとのことでゴンパまでたどり着き、呼吸を整えてから中へ入ろうと足を踏み出したら、五体投地をしている人がいっぱい。その人たちの邪魔をしないようにそーっと壁伝いに歩いて奥の部屋へ。
これまで見たことのないような仏像や一風変わった壁画を、さまざまな角度から眺めて楽しむ。先ほどの五体投地の集団が来るまで、心ゆくまで見ておこう。

一度外へ出てから隣の建物に入ると、窓のない空間の中にさらに強烈さを増した仏像の数々が。
一部の像の顔には布がかけられている。何か行事のあるときだけお披露目されるのだろうか。
暗い部屋の片隅に置かれたオイルランプの光が、人の通った気配に合わせてゆらゆら揺れて、仏像を怪しく照らし出す。
少し先の建物に行くと、巨大な仏像の顔がどかんと現れて思わずおぉっと声をあげる。
顔のそばへ近づくと、体部分は床下にちゃんとあった。
カラフルな壁画と日光のよく入る窓のあるこのスペースは、さっきとは正反対の明るい雰囲気でほっとするけれど、あの密教風の何かを秘めた感じの中で感じた静かな高揚感もたまらない。

バラエティに富んだティクセを後にして、ゴンパ経営のレストランで腹ごしらえをしたら、バスをつかまえてシェイまで。
車窓から見えるのは、はるか頂上にはためくタルチョ(風にはためくことで仏法を広めるとされる旗)と石を積み重ねた小屋らしき建物。まさか、あんな高いところまで登るんじゃないよね……?
SHEY PALACEと書かれた看板のある位置からは王宮も要塞も見えず、石段が延々と続いているだけ。終わりの見えない道ほどつらいものはない。ゆったりコースで来たつもりなのに、これじゃプチトレッキングと何ら変わらないハードさだ。
一心不乱に歩いて王宮に着いたら、味のある老僧侶が鍵を開けて中を見せてくれる。
こちらにも巨大な仏像が安置されているが、ティクセのものと比べて渋く見えるのは、年季の入った木像空間効果によるものか。

さあ、気合いを入れ直して、さらに上にある要塞を目指そう。
砂利に覆われた坂道には手すり代わりとなるものはなく、石段というより障害物でしかない岩をよじ登り、ときどき足をすくわれながらもなんとか登頂成功。
間違っても、ここはビーチサンダルやスカート着用で来るところではない。
ただでさえ険しい道のりを、自らの軽装のせいで難易度を高めてしまったことにちょっぴり後悔する。

いつもならちょっと強いと感じるびゅーびゅーの風も、一仕事終えたあとだと心地よい。
これですかっと空が晴れていてくれれば、素晴らしい山々の眺めで苦労が報われた、と心から思えただろうなあ。

朝からよく晴れた翌日は、レーの街を見下ろすようにして建っているレー王宮を訪れる。
日の出から日の入りまでという自然の流れに沿ったオープン時間は、電力の節約にも一役買っているのだろうか。
電気が点いていないせいでなかなか暗闇に目が慣れない中、手探りならぬ足探りでそろそろ廊下を進むと、きれいに整えられた展示室に行き着く。
写真のパネルが上下2段に並んでいて、見れば王宮の修復前と修復後が同じ撮影位置から撮られているために簡単に比較できるようになっている。
そういやここまでの道中、砂袋を運ぶ人と何度かすれ違ったな。
元の姿に戻すべく、また元の形を活かした整備をすべく、今日も王宮のあちこちで地道な作業が続けられている。
ちょうど朝のお勤めで開けたばかりというタイミングで、本堂も見せてもらう。
こじんまりとした堂内には古めかしい仮面や仏像があって、睨みをきかせた表情でこちらを見つめている。

王宮見学のラストは、屋上に上ってレーの街を一望。
寄り添うようにひしめく建物の背後を、雪の帽子をかぶった鋭い山々が囲む。
街のあたりだけ緑があちこちにあっていきいきとした気配が感じられるのに、その先の荒涼とした大地には灰色や茶色の乾いた色が広がるだけ。
夏を迎え、待ってましたとばかりに大勢のツーリストがやってくる気持ちいいシーズン真っ只中の今。
けれど雪に閉ざされ、寒さの厳しい冬がその先には待っているということを、この雪山たちは静かに教えるようにしてじっと立っているみたいだ。

3日間かけてのリハビリのおかげで、高度順応もばっちり。さあ、ラダックの夏をこれから存分に満喫していこう。



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2009.7.1 レー / Leh

Join the discussion 3 Comments

  • shinro より:

    ティクセゴンパもレーの町並みも息を呑む絶景ですね!
    来月には日本でしょうか?
    自由の身になった僕と遊んでください(笑)。

  • Ryo より:

    チベットの空の青は格別だね

  • スミサト より:

    ■shinroくん
    この周辺は常に絶景続きで、凄かったよ。
    段々と絶景慣れしてくる自分がいたほど。
    帰ったら遊びましょう、夏は遊ばないとね。
    ■Ryoさん
    本当にチベットまんまだったよ。
    濃い青に、パキッとした風景、たまらないよね。