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歩く速度で水郷地帯を旅する

2009/05/09


船をまるまる一艘借り切って、毛細血管のごとく複雑に張り巡らされた水路を縫うように進む、心地よい風に吹かれながらののんびりクルーズ1泊2日の旅。
言うまでもなく、アレッピーにやってきたのはこのためだ。
スパイスと野生動物の宝庫である涼しい気候のペリヤルから下ってきたせいか、その暑さが一層こたえる。
水の上を走るホテルとも言うべきハウスボートを早く押さえてゆっくり休みたいところだが、ここはひとつ慎重にならなければ。
なぜならこの優雅な体験はなかなかお値段も張るし、22時間をずっと同じボートの上で過ごすのだから、万が一選択を誤ればインドの思い出ワースト1にならないとも限らない。


アレッピーはバックウォーターと呼ばれる水郷地帯を、かつての米運搬船に似せてつくった客船、ハウスボートで巡る拠点として、また半日ほどのボートトリップを楽しめる場所として、南インドを旅するなら外せない街のひとつ。
だからたいていの宿ではハウスボートの宣伝がもれなくついてくるし、街を歩くと「ハウスボート紹介するよ」と声を掛けてくる人がちょくちょく近づいてくる。
でも即決するのも、道端の客引きについていくのも不安だからと自ら旅行代理店に出向いてみるも、どれもこちらの希望に叶うものはなかった。
狭い水路でも進めるような小さめのボートで充分だと言っているのにエアコン付きの大きな豪華船を薦めてきたり、乗船予定の写真がまったくないのでは、さすがに決めるに決められない。
結局、いちばん条件が整っていたので宿で手配をお願いすることにした。
3食とおやつ込みミネラルウォーター付きでお値段、3250ルピー(約6500円)。
乗船当日、朝食を終えたら大事な用事を済ませなければ。
「ビールはどこで買える?」と聞いて回ってやってきた酒屋には、男の人たちが群がっていて近寄りがたい雰囲気。
男衆のあいだをすり抜け、カウンターでビール2本と告げると、大瓶をささっと新聞紙に包んで渡される。
見ればほかの人たちも、手にしているのは新聞紙にくるまれた「何か」。
インドでは、お酒を買うのも飲むのも堂々と、という訳にはなかなかいかない。
準備も整い船着き場へ向かうと、写真で見た通りのハウスボートが出航を待っていた。
雨よけの青いビニールシートが残念な限りだが、質素ながらも設備はまったく申し分なく、とくに船首の上にしつらえられたデッキスペースがナイスな感じ。
そして屋根の上にはソーラーパネルがあり、実物は確認できなかったけれど汚水処理用のバイオタンク完備ということもわかった。

近年バックウォーター観光が大きな収入源となっているアレッピーではハウスボートの数がみるみる増え、その運航が川を汚染する要因のひとつだと言われている
これ以外にも川辺に暮らす人が流す生活排水やゴミの投げ捨ても大きな問題で、そのためにホテイアオイといった水草が大繁殖して川の流れが滞ってしまっているようだ。
いつか洗濯や水浴びに欠かせない川の水がまったく使えなくなってしまうとしたら。
この美しく魅力的な風景が、誰も住めないゴーストタウンのような地域になってしまうとしたら。
せめてできることをできる範囲でやって、少しでも迷惑をかけないようにしたい。
本当はエンジンなしの全行程手こぎで運行するボートに乗るかどうかも迷ったけれど、少しでも遠くへ行ってみたかったし、そういう希望を叶えれくれるボートが果たしてあるのかどうか見つけられなかったので断念した。
さて、丸ごとココナッツのウエルカムドリンクを渡されてチューチューやっていると、ゆっくりボートが動き始めた。
停泊中のボートすれすれという船着き場のある細い川を抜けると、湖かと思うほどに大きな川に出て、ちょうど同じ時間帯に出航したほかのハウスボートが大勢集まってきてたちまち行列ができる。
インドはただいま夏休みシーズンにつき、家族連れ、ハネムーン風のカップル、大量のビールを持ち込んでどんちゃん騒ぎをしている男性グループなど、たくさんのインド人がいよいよ始まった気ままな船旅を楽しんでいる。

途中で支流となる水路に向かうもの、そのまままっすぐ進むものと分かれ、行列は次第にばらけていく。
この船も細い水路へと入っていくと、両側には背の高いココナッツの木が延々と先まで続き、ところどころに生えているマンゴーの木は、デッキに登って手をのばせばいくらでも実をもぎ取れそうなほどだ。
船が通り過ぎる瞬間、水浴び最中の親子や川岸で釣りをしている女の子、ボートが来たので家から走って見にくる少年たちが「バーイ!」と言って笑顔で手を振るので、同じく笑顔で「バーイ!」
モーターを動力に動いているとは言えスピードは人が歩く速度と変わらないから、「どこの国?」「名前は?」と質問しながら川岸の道を歩きながら質問してくる子も。

ふたたび広い川に出て、ここでいったん休憩。
船を横付けして上陸すると、ジュースやお菓子を売る小屋の隣からエビ買わない? という呼び込みがかかる。
手にしているのはTIGER PRAWNという、体長20cmほどの立派なエビ。
これまでに幾度か目にすることはあっても、お財布の都合上、口にしたことはなかった。
高いよね、でも食べたいね、と真剣に相談して値段を聞き、やはり高いからと諦めかけて、値下げしてきたからまた話し合って、というやり取りの結果、今回の旅はご飯付きだから2尾だけお持ち帰り。
ちなみにシーズンを迎える8月になるとぐっと安くなるそうだ。

ボートはまたまた細い水路に入っていく。
のどかで似たような風景が広がっているのに、ただボーッと眺めていても飽きないなあ。
バスの車窓を眺めるのも面白いけれど、このボートはゆっくり進む上、川岸にいる人と同じぐらいの目線だから、川での暮らしをぐっと間近で感じられるのがいいのかもしれない。

おいしいランチをいただき、昼寝をし、チャイとビスケットのおやつをほおばり、太陽がだんだんオレンジ色を濃くし始めたあたりで本日の運航は終了。
小さな村の川岸に停泊すると、これからディナーの準備をするから散歩に行っておいで、と言われたのでメインロードの幅が人ひとり分ほどのこの村を歩いてみることに。

大人たちは夕飯の支度や何か家のことをしながらこちらを見てニコッとするだけだが、子供たちは嬉々として後ろをついてきて、これまでの道中と同じような質問をしたあとにペン持ってない? お菓子持ってない? とおねだりしてくる。
これまでも物を欲しがる人にはどうするべきか、自分たちなりに考えて実行している。
お金、お菓子、ペンなど、彼らの欲しがるものにはいろいろな種類があるが、ペンであれば学ぶことの役に立つかもしれない。
加えて、ここでは街に暮らす人に比べてはるかに買い物には不自由するだろう。
そんな事情もあり、何本か用意していたペンをかばんにしのばせてあったので、何人かの子にはプレゼントした。
しかし、挨拶もなしにちょうだいちょうだい、と言う子には、とりあえず言ってみてもらえればラッキー、という感じがしたのでお断りした。

ボートに戻ったら、そろそろサンセットタイム。
よし急げとビールを持ってデッキへ登り、赤く染まる空の下、からからに乾いた喉にビールを流し込む。
涼しくなりかけた心地よい風に吹かれながら、家路を急ぐ鳥の群れの鮮やかなフォーメーションを見ながら、ヤシの木が風に揺られてさわさわという音を聞きながらの晩酌は、これまでのインドの旅でいちばん贅沢なシチュエーション。
すぐに瓶が空になり、あっという間に飲み尽くしてしまう。
そういや今朝、ビールを探して歩いていたとき、酒屋への道を尋ねたおじさんに「2本? 足りないよ。この時期は最低4本はないと」と言われたのが冗談ではなくて本当のことだったんだと痛感した。
ディナーはランチ同様、おいしいケララ料理づくしにプラスして、昼間に購入したTIGER PRAWNを焼いてマサラで味付けしたもの。
おなかがはち切れんばかりに食べたのと晩酌でのビールの酔いも手伝ってか、まだ夜も早いというのにまぶたが重くなってしまって部屋へ引き上げる。

翌朝、まぶしい朝日の中での朝食を終えると、今日はどこへも寄り道せずに一路アレッピーへ。
たくさんのカモをカヌーに乗って追い立てているカモ追いのおじさんや、毎年8月に開かれるスネークボートレースで使われる全長30mのボート(100人の漕ぎ手が乗って速さを競う)の脇を通り過ぎて大きな川へ戻ってくると、往路よりも激しいハウスボート渋滞に巻き込まれる。
皆クラクションをこれでもかと鳴らしたり、割り込みを仕掛けようとしてかえって混乱したりと、インドの道路で毎日見られるような光景が広がる中、なんとか渋滞から脱出してようやく帰還。

やはり小さいボートを選んで正解だった。
それでも入れないさらに細い水路もあったものの、川に暮らす人たちの日々の暮らしも、緑豊かな美しい川辺の風景も堪能できた。
適度な距離を保ちながら接してくれた操縦士兼コックのスタッフたちも素晴らしかったし、夕日とともに楽しむビールも最高だった。
大きな豪華客船に乗らずとも、質の高い時間を過ごすことができた。
あとはこのハウスボートでのトリップがいつまでも続けられるように、川での暮らしをこれ以上壊さないように、なんとか恩返しできる機会が持てないか思案しているところである。


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2009.5.3 アレッピー / Alleppey