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ふたたびの海沿いらしいむしむしした暑さに、汗が止まらない。
無理もない。標高2000m級の高原から、たかだか10時間で一気に降りてきたのだから。
夜になっても生ぬるい風が吹くばかりで、ちっとも涼しくならないコチの街。
クーラーのがんがんに効いた部屋でごろごろしたいという気持ちもなくはないが、いちばん暑い時間帯でもほいほい出かけてしまうのは、どうやらコチの洗練された大人の魅力にとりつかれてしまったから。
直径300m以内にコンテンポラリー・アートのギャラリー兼カフェだの、かわいらしい内装も極上の紅茶も楽しめるカフェだの、心のツボを突きまくるショップと、クオリティの高い宿が多く集まるフォート・コーチン地区。
がらくた寸前の小物から、いったいどうやって店内に収めたのかを質問したくなるようなばかでかい家具や置物などを扱う、アンティークショップだらけのユダヤ人街。
このふたつの地区をぶらぶらするだけでたっぷり1日使ってもいいぐらいなのに、ほかにもユニークすぎる漁の様子も見られるし、ケララ州の伝統舞踊も観ておきたい。
あぁ、やりたいことが目白押しで困る。


コチの街はいくつかの島から成っていて、それぞれの島へ渡るにはジェッティーと呼ばれるボートに乗るのが安くて便利。
しかし、バスターミナルのある本土のエルナクラム地区に着いたときにはすでに真っ暗。
宿探しもあるしおなかもペコペコだし、ここはかなり迂回しなければいけないけれど陸路から行くほうがジェッティーを待つより早いだろう、ということで、いっしょのバスに乗っていたフランス人カップルとオートリキシャーをシェアしてフォート・コーチンへ向かう。
30分後には、設備ばっちりでフレンドリーな雰囲気の大当たり宿を見つけて無事チェックイン。
次の日からは、ステキなものばかりが集まったこの地区の、優雅だけれども控えめな魅力を存分に堪能する。
暑さでばててしまっては元も子もないから、1日のスタートはしっかり朝食を取ることから始める。
宿の裏手にあるKashi Art Cafeは小さなギャラリーの奥に東屋のような風通しのいいカフェがあり、店内にもいくつかの作品が掛けられている。
ふわふわのチーズオムレツやフレンチトースト、フルーツの盛り合わせといった日替わりの朝食を提供してくれるこのカフェでは、朝8時のオープンと同時にたくさんの人がやってきて、ニコニコしながらプレスコーヒーやフルーツジュースと共に朝の時間を楽しむ。
ここでおなかも心も満たし、ついでに持参したペットボトルにミネラルウォーターを満タンに補充させてもらう。

水道水を飲むのは心配なのでミネラルウォーターはつねに手放せないのだが、1日1リットルボトル1本かそれ以上を消費したあとに残される空きペットボトルの残骸を見ると、仕方ないとは言えちょっぴり罪悪感を感じてしまう。
だからミネラルウォーターのリフィルサービスは願ったり叶ったりで、しかも新たに1本買うより安く済むのもうれしい。
もう1軒のお気に入りは、質の高い料理といっしょにおいしい紅茶をいただくことのできるTEA POT。
お茶の木の脚が巨大なガラス天板を支えるテーブルや、店名が示す通りさまざまなティーポットややかんが飾られた店内は、食べ終わったあとも余韻を楽しんでほうけるのに最適の場所。
そして、ここでぜひ食べてみたかったのが、「Death by Chocolate」というすごい名前を持つチョコレートケーキ。
目の前に現れたそれを見て一瞬完食できるか不安になったものの、食べてみるとしつこくない甘さのおかげでするすると胃の中に消えていって、数分後には空っぽのお皿だけが残った。

午前はこんな感じでのんびりやって、本格的な行動開始はいつも午後から。
日本では築50年の家に住むせいか古い道具がいつも気になってしまい、これまで訪れた国でも時間があれば骨董屋街へ足を運んでいた。インドでも何か面白いものはないかと、ユダヤ人街へ行ってみることに。
オートリキシャーをつかまえて走り出すと、日曜日のせいか通りのお店はどこもかしこもシャッターが降りていて人もまばら。
まさかユダヤ人街もこんなだったら、と心配になるが、だったらまた明日出直せばいいだけじゃないかと開き直って、さあ到着。
案の定やっていないお店はあるものの、かえってこのほうが1軒1軒じっくり見て回れていいものに出会えるんじゃないかと、そんな気がしてきた。
家具や大型の石像を主に扱うところ、木彫りに強いところ、ランプばかりを集めたところなど、お店のカラーがはっきりしているから、ここは流し見でいいな、ここは我が家に似合う掘り出し物がありそうだから念入りにチェックしようなど、店内に入る前にあらかた見当がついてつねに全力で物色しなくていいのが体力的に助かる。
お店のディスプレイやライティングも思わず唸ってしまうほどにステキなものが多くて、ウインドウショッピングでも充分楽しめるが、今回惚れ込んで購入したのは、ケララで約80年前につくられたらしい天然染料使用の牛の壁掛けと、ブジへの旅の途中で工房見学をしたブロックプリントのときに使う、木製の判。

コチにはまだまだ見どころがある。
巨大なクモの巣のような装置を大がかりに上げたり下げたりしてかなり変わった魚の捕り方をする、チャイニーズ・フィッシング・ネットと呼ばれる仕掛けを使った漁の風景。

顔にカラフルな化粧を施して目や手の動きで感情を表現して物語が進められる、インド版歌舞伎と呼びたくなるような伝統舞踊、カタカリ。

ほかにもアーユルヴェーダのマッサージもお手頃価格で体験できるし、漁場のそばで取れたての魚介を買って持ち込むと好きなように調理してくれる屋台風レストランもあるし、この暑さじゃなければしばらくここに残ってカフェ三昧、観光三昧、魚介三昧の日々を送りたい!
と思ってしまうほど、コチでの3日間はあっという間に過ぎていった。
余談だが、コチですれ違った人の多くがフランス人だということに驚いた。
オシャレな格好、聞き惚れてしまうフランス語独特の響き、手にはフランス語のロンリープラネット南インド編。
気になったのでフォート・コーチンの商店でちらっと会話を交わしたフランス人に質問してみたところ、南インドの中でもケララ州は特に人気のスポットだという。
フランス人の影響があるから? コチは洗練されているのかも、と思えば妙に納得がいく気がする。

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2009.4.27 コチ / kochi

Join the discussion 6 Comments

  • choki より:

    どの国もそうかもしれませんが、インドは本当に色んな顔があるんだなあと、このブログを見ながらつくづく感じます。色んな国の文化のサラダボウルというのとは、タイプの全然違う多彩さ。
    いろんな空気、いろんな湿気、色でいうならグラデーションの豊富さ。
    これが本でタイトルをつけるなら「インド多面体」とか、
    そんな感じ。あ、でもこれは色気なさすぎ(笑)。

  • pointweather より:

    ウホ!死因がケーキチョコってのは大往生極まりないです。涅槃で鼻高々です。
    少し薄めのタミル系インド、これからも目が離せないですね。
    ちなみに牛顔は自分も買いだと思いました!

  • ポンチのお父さん より:

    お二人さん
    本屋さんで売ってるインドガイドブックには載っていないインドをご紹介下さって有り難うございます。既に5年ほど前から年に2〜3回はインドのあこちらに仕事で行ってますけどお二人さんの行く先は会社人間にとって聞いたこともないところばかりですね。
    インドまで追っかけを企てていたのが、出張先がタイになったとご連絡をしました。それが、またしても会議の日程とその開催場所が変更になり、17日に成田を発ちバンガロールにて2〜3日打ち合わせをしようと声がかかりました。
    お二人さんはすでにバンガロールには行きましたね。
    昔、「君の名は」と言うラブロマンスがあり、ヒーローとヒロインがすれ違って会えなかったり、予想外のところで巡り合ったルしたものですが、意図的に会おうと思ってもそうはいかないのですね。今月の18〜21日頃はどこにいますか?
    南インドでは「フェニ」とか言うヵシューナッツまたはヤシの実から創ったスピリットがありますが、私の滞在中にどこかで巡り合えたら、「フェニ」をご馳走したいと考えています。お二人さんがお世話になった「日本人」は毎日何を食べているのでしょうか?もし故郷の味をご希望でしたら、お届けします。では、新型ウイルスなどに感染しないでではステキな旅を続けてください。

  • スミサト より:

    ■chokiさん
    三度目のインドにして、知らないことが多すぎです。
    本当に大きくて、色んな種類の人がいる国だと凄く感じます。
    今いる場所も、面白い場所なのですが、それはもう少し先のブログで。
    刺激がたくさんで、更新が全く追いつきません!
    ■pointweatherさん
    洒落たケーキの名前ですよね、お店でいかがですか?
    牛頭、買いですよね! 最近のものだとエナメルの塗料で塗られているから味気ないんですが、古いのはイイ味だしてます!
    コチは買いたいものが多くて大変でした。
    ■ポンチのお父さん
    コチは割とガイドブックでも紹介されていますよ。
    ガイドブックでは洗練感が伝わりはしませんが。
    18日以降だと、チェンナイ、もしくはダージリンの辺りまで行ってしまっているかもしれません。
    フェニはゴアで飲みましたが、かなり強いですね。
    食事については今後触れようと思っていた所です。
    今いる街のご飯がとっても美味しいので。

  • raita より:

    コチてコーチンのことなんですね。
    10年前に行ったときはおしゃれな店なんてなかったのに・・・・
    ここでは大切な人の訃報を伝えられた悲しい思い出のある街ですが、また行ってみたいなあ。

  • スミサト より:

    ■raitaくん
    そうです、コチはコーチンです。
    元の名前に戻っている所が多くて戸惑います。古い名前で覚えているものです。
    9年前もオシャレなお店は無かったように思います。
    優れた骨董品屋が多いので、お金をたっぷり持っていってくださいね。

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