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石と木の不思議村に迷い込む

2009/08/05


これはまた、不思議な形だ。
石と木を組み合わせた頭でっかちで背高のっぽの寺院が、小さな村を見下ろすようにして建っている。
高いのは城塞としての役割も果たしていたためというからなるほど納得がいくが、空に向かってだんだん細く軽くならずにどっしりとした存在感を放っているのは、さすがに変わっている。
しかもインドではあまり見かけない、木をふんだんに使用して石葺きの屋根を持った建築というのも、なかなか異質で面白い。
そんな寺院を一目見たくてキノウルという地域にやってきたのに、思わぬ収穫に顔がほころぶ。
このあたりの村々には、手のぬくもりと創意工夫が感じられる、抜群にかわいらしい家や小屋でいっぱいなんだから。


キノウルの中心地レコンピオを出発して目指すはサングラ。
あの不思議な寺院、MOTMIM MANDIRのあるカムル村へ行く基点となる街だ。
小さなバスはダム建設中の工事現場を抜けて川沿いの道をもうもうと砂煙をあげて走り、ときどき停車しては乗客をたくさん乗せたり降ろしたりを繰り返す。
しかし、今度乗車してきた人はこれまでとは様子が違う。小さなお盆を片手に皆に何かを配っている。きっと寄付を求めるサドゥーだろう。インドではよくあることだが、わざわざバスを停めてまで乗せるなんて珍しい。
ほかの乗客がどうするかを見ていると、お菓子のようなものをもらってその代わり小銭をお盆に載せる人もいれば、もらいっぱなしの人もいる。
そして我々のところにやってきたサドゥーが、お菓子を配りながら笑顔で言った。「Welcome to Sangra Valley!」
驚いた。普段なら無表情で寄付を募って回る輩が多いというのに。気持ちよい歓迎の言葉に自然と財布に手が伸び、小銭を出して彼に渡す。
もらった金平糖のような砂糖菓子やナッツ、ドライココナッツなどをぽりぽり食べながら、ふたたび走り始めたバスであたたかい気分に浸る。

昼前に到着したサングラは、小さい街ながらメインロードにこぎれいな宿が並ぶ。
カムルはどこにあるのか宿のスタッフに尋ねたら、あれだよ、と言って向こう側の山を指さす。なんだ、MOTMIM MANDIRをはじめカムル村の全景がばっちり見えているではないか。

軽い食事を済ませたらさっそく向かう。ときどき人に道を聞きながら、なんとものどかな警察署の前を通り過ぎ、リンゴ畑のあいだの砂利道を歩いていく。
車は滅多に通らないし、足元には小川が流れているし、緑に囲まれたとても気持ちのよい散歩道だ。
おや、脇道にそそられる小屋を発見。
梁や扉には木、壁と屋根は石を積み上げただけという無骨な佇まいで、若干後方に反った感じで建っているのも手づくりっぽさが出ていて微笑ましい。ちらっと覗いてみたら人の気配はなく、部屋のど真ん中に謎の木製器具が。小屋のそばに水車の跡があったから、きっとかつては脱穀か何かをするために使われていたのだろう。
村の入口にある門をくぐると、またまた出てきた石と木の絶妙な組み合わせ。今度は民家の門だろうか、横から見ると屋根が両手を合わせたような形になっていて、合掌造りとはまさにこのことだなんてひとりで感心してしまう。
寺院へ向かって歩いている途中に出くわすほかの家々もとにかく個性的で、薄くスライスした石をバランスよく積み重ねていたり、石の層の途中に角材を仕込んでみたり、構造上日本ではお目にかかれない建物のオンパレードに興奮が止まらない。

寺院までの道のりは急坂続きで、車の通れない階段ばかりの村道をセメント袋をかついで歩く青年がふたり。
建物ウォッチングで立ち止まっているあいだに追い越されたり、踊り場で休憩中のところを追い抜いたりしながら同じ寺院を目指す。タッチの差で彼らのほうが早く門をくぐる。

新しいながらも見事な彫刻で埋め尽くされた門を抜けると、ここで不思議な光景を目にする。
同じ境内に、渋い色合いのヒンズー教の寺院と黄色に彩られたチベット仏教の寺院が同居しているのだ。信じる神が違っても村の幸せを願う心はいっしょ。だとしたらこんなに素晴らしいことはない。

ヒンズー寺院は民家に比べると格段に精巧なつくりになっていて、木材の使用量もずっと多い。
真ん中には儀式用なのかステージがあり、楽器が無造作に置いてあって、この舞台に施された彫刻も素朴ながらいい味を出している。
しかし、見渡してもあの高い寺院はここにはない。どうやらMOTMIM MANDIRではないようだ。
では、そろそろ本命の寺院MOTMIM MANDIRへ。
腰ほどの高さがある石でできた塀伝いに歩いて、ほどなく到着。
門を押してもびくともしないからてっきり今日は休みかと思ってあきらめようとしたそのとき、力を振り絞った最後の一押しが効いてようやくぎしぎし音を立てて開いた。
中に入るとさらに門があり、金属製の門を恐る恐る開けようとすると警備員が出てきて制止される。やっぱり今日はダメな日?

外にある注意書きによると、帽子着用、腰にはリボンを巻いて素足、という出で立ちでなければ入ることが許されないそうだ。ということで、貸出用のキノウル地方特有の帽子と腰巻のリボンをちゃんとつけた時点でようやく中に入れてもらえる。
トランプで遊んでいた関係者たちはこちらに顔を向けてあいさつをしたら、すぐさまゲームの続きに熱中。
中に入ってすぐ右側に、確かにあの背の高い寺院はあった。ただし、立入禁止につき外から眺めるだけというのがなんとも残念だ。

近くで見ると寺院自体はほぼ木製でネパールの寺院建築に少し似ているなとか、遠めに見ていたときとはまた違う感想を抱く。でも、やっぱり実際に中に入ってみたかった。
ちょうど寺院の反対側にできた日陰に仲良く座っているおじさんたちがいたので話しかけてみると、この村には約3000人が住んでいて、うち1000人が仏教徒、残りがヒンズー教徒だそう。それならば先ほどの寺院の混在も納得がいく。
立入可能なヒンズー寺院を覗いていると、先ほどおしゃべりをしたおじさんがやってきておでこにティッカ(色粉)を、手のひらには今朝サドゥーからもらったのと同じ砂糖菓子をくれる。

MOTMIM MANDIRを出て、来た道とは違うルートで坂を下る。
こちらにも目を惹く民家や小屋がたくさんで、とくに建具に面白いものが多い。
それらを追っているうちにひときわ大きな邸宅が見えてきて、ちょうどその前で食事中の人たちがいた。写真を撮ってもいい? の一言に快諾。

この家に住む少年がチャイを出してあげると奥に入っていき、待っているあいだおしゃべりをしようと腰を下ろす。食事をしていた彼らはネパールの出身で、夏のあいだ仕事を求めてインドにやってきて、冬にはまたネパールに戻るとのこと。英語はあまり話せないんだと言いながら、ポケットから財布を取り出してネパールのお札を引っ張り出して「ほらね」という仕草をする。
チャイを運んできてもらったのと同じタイミングで、彼らは仕事に戻る時間に。チャイをいただいたあとに見に行ってみると、チームワークばっちりで干草を納屋にひょいひょいしまっていく、その手際のよいこと。しばらく見守り、最後に彼らに手を振って別れを告げる。
帰り道はちょうど下校の時間とかぶっていたため、制服姿の子供たちでいっぱい。ハロー、写真撮ってよと人懐っこく声をかけてくる彼らのリクエストに応えているうちにどんどん人が集まってきてしまい、辺りにはキャーキャーにぎやかな声がこだましていた。

翌朝、一路サラハンへ。
途中バスの乗り換えがあったものの、順調な移動で午前のうちに着いてしまった。
バックパックを背負ったまま向かったのはビーマカーリー寺院。黒い母の異名を持つおどろおどろしい女神カーリーを祭っている寺院だ。併設されているゲストハウスで空室がないか尋ねると、掃除が終わっていないからちょっと待っていて、と椅子を出されたのでしばらく待機。
すると、昼ご飯は済んだか? との質問が。まだ11時だしこれからだと答えると、今日はタダでごはんが食べられる、と言ったように聞こえた。なぜ無料で? もしかしたら聞き間違えたかな。
チェックインを済ませ、タダの響きに魅せられてもう一度確認してみようとレセプションに顔を出したら、こっちこっちと女性スタッフがすたすたと寺院の裏側に案内してくれる。
そこにはずらりと一列に床に座り、黙々と食べている人の姿。しかし人数がとにかく多い。課外授業でやってきたという感じの小学生もたくさんいる。なんで? 勝手に並んでもいいのかな? と思っているうちにトレーが配られ、ごはんにサブジ(野菜のスパイス煮)にダル(豆の煮込み)に、次々と盛られていく。
なんだかよくわからないけど、えぇい、食べちゃえ。
全体的にやさしい味でほとんど辛くなく、すいすい胃袋に消えていく。これはおいしい。残りが少なくなるとおかわりを配りにやってくるが、ほかの人に回らないのでは申し訳がないから辞退をして、自分のお皿が空っぽになったところでごちそうさま。
結局、なぜタダだったのかはわからないままだったが、お金を払って食べるとき以上にごはんのありがたみを味わった気がする。

食後にはビーマカーリー寺院へお参り。
すぐ脇を駆けていく制服姿の子供たちのにぎやかな声が一段落したところで、ゆっくり見て歩く。門に施された細工の細かいこと……、と思って見ていると愉快なモチーフが満載で、いつの間にか細かさや美しさよりもどれがいちばんインパクトがあるかを探していた。

門を抜けたら、銃を持った警備員から手荷物はすべて外に置き、帽子をかぶってから寺院に入るよう指示を受ける。さすがに心配なのでひとりが参詣、もうひとりは荷物番をすることにして、備え付けのオレンジ色の帽子をかぶった背中を見送り、ベンチで戻りを待つ。
先ほどのふたつの注意事項以外にも革製品の持ち込みもいけないようで、あとから訪れる参拝者がベルトや財布、携帯電話のケースをベンチに置いて出かけていくのを見かけた。

戻ってきたら今度は役割を交代、手ぶらの軽い足取りで寺院の中へ。
建て替えをしたのだろうか、カムルの寺院に比べるとだいぶ新しく、ちゃんと一直線に石と木が並び、木の色もまだ明るくてぴかぴかしている。電気の灯っていない内部はちょっと暗くて、足元をしっかり見て歩かないとつまずきそうになる。手すりにつかまってゆっくり階段を上り、まずはいちばん上の階を目指し、窓から顔を出して外を眺める。
曇っているので遠くはかすんで見えるが、寺院を囲むようにして整備された公園や門前町の様子がよくわかる。
祭られているカーリーの姿はうっすら黒光りして見える程度だったが、正面では熱心にお祈りを捧げる家族がいた。その脇で邪魔にならないように立って、これまでの旅の無事を感謝して寺を後にする。

石と木。
周りを見ればどこにでも転がっていそうなものに手を加え、どこにもない丈夫で美しい建物をつくりあげたキノウルの人々。
立派な寺院建築ももちろん素晴らしいが、個性が際立つ素朴な味わいの民家を巡ったことが、ここでのいちばんの思い出になるだろう。



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2009.7.18 カムル – サラハン / Kamru – Sarahan

Join the discussion 3 Comments

  • マコ鮫 より:

    面白い屋根ですね。強風は吹かないのかな?
    パラパラ落ちちゃいそうですけど・・・

    何処と無く、日本のお寺の屋根の角度に似ているような気もしますね。
    旅行中、インドは四角い建物が多かったように思うので、三角の建物を見るとなんだか落ち着くような気がします。
    あと、何処と無くうなぎ犬に似たような取っ手。。。
    やっぱ、自分は日本人なんだなーと感じます。

  • 随念院 より:

    ヒマラヤの山中で、ネパールに近いインドですね。たしかにこま鮫さんの言うように、寺院の屋根がびっくりするほど日本の寺に似ています。しかし、広いインド、こんなところがあるとは、ガイドブックにないインド、有難うございます。こんごとも紹介を続けてください。

  • スミサト より:

    ■マコ鮫さん
    良くみると、小さな釘で打ちつけてあったりしました。全てではないかもしれませんが、頼りない感じはありますね。(笑)
    インドの建物はどこも似たような四角のものが多いですよね、それだけにこの村は非常に面白かったです。
    うなぎ犬、たしかに似ているかも!
    ■髄念院さん
    ネパールとは面しているエリアではないですけれど、比較的近いし、環境的にも似ているかもしれないですね。
    インドは本当に広いです、そして街によって色々と変わるので飽きないです。