インドには、たくさんのチベット文化圏の地域がある。
シッキム、ラダック、スピティ……。どの地域に行っても、顔立ちが似ているからというだけではない居心地のよさがあり、なかなか離れがたかった。
ところで、ラダックのことを説明する際によく使われる「チベットよりチベットらしい地域」という一文。
大いに期待が膨らむとともに、ちょっぴり複雑な気分にもなった。
ラダックの説明をしているはずなのに、チベットの現状を如実に物語っているようで。
旅のあいだに見聞きしただけでも、チベット人らしさを次々と奪う出来事が横行しているそうで、そんな彼らの境遇を思うと心の奥がしくしく痛んだ。
帰国して早々に購入したこのDVDを見たら、その痛みはさらに増した。
まだ小学生かそこらの子供が、チベット人らしさを守っていくために親元を離れ、ヒマラヤの険しい山を小さな足で必死に歩き、何日もかけてインドにたどり着くまでの話。
でも、そこには小さな希望の集合体も見えた気がした。
『ヒマラヤを越える子供たち』は、小学生ほどの子供たちが亡命を手助けする大人といっしょにインドにたどり着くまでを追ったドキュメンタリーだ。
現在のチベットでは、チベット語で教育を受けることが不可能である。授業は中国語で、中国の歴史や文化を学ぶという。しかもチベット仏教の信仰に関しても監視の目が光り、チベット人にとっては非常に暮らしにくい状況が長きに渡って続いている。
そんな環境では、チベット人らしくあれと教えたくても教えられない。
そこで断腸の思いで我が子を遠くインドへ送り出し、チベット人として学び、いつかチベットに戻ってきてチベットらしさを取り戻して欲しい。
そんな願いを込めて、国境を見張る兵士の少ない厳冬真っ只中のヒマラヤに子供を送る。
まだまだ甘えたい盛りなのに、「お母さんに会いたい」と泣き出す女の子。
そんな妹を必死になだめようとする兄。
危険を冒しながら、子供たちを無事に連れていくために奮闘するガイド。
そして、もう二度と会えないかもしれない我が子を気丈に送り出す親。
ときには凍傷で手足の指を切断しなければいけない子もいるし、途中で命を落とすという最悪の事態が起こることだってあるというのに。
言葉にすると痛ましくても、画面の中で見る彼らの顔には「チベット人でありたい」という強い意思がうかがえて、その力強さにぐいぐい引き込まれる。
時折見せる笑顔にも、また救われる思いがしたり。
生まれ育った場所で昔から話されている言葉を自由に話し、自分たちの文化を誇りに思うことが当たり前だとしたら、当然の権利を侵害されている彼らのやり場のない怒りや悲しみはどれほど深いだろう。
それなのに、彼らは今日もおだやかな微笑みを浮かべながらつつましくもたくましく生きている。
個人の人生としてというより、チベット人というアイデンティティを皆で大切にしようという生き方。完全に理解することはできなくても、先祖を尊び、子孫を思いやる生き様には無条件に胸が熱くなってしまう。
チベットサポートグループKIKU
定価: ¥ 1,500
おすすめ平均
ハンパではなく心を動かされます
こんな現実が…
チベット問題に関心がある人すべてにみてほしい
2009.9.7 鎌倉
これは見ていません。
ぜひ見てみたいと思います。
チベットを取り巻く状況は年々辛いものになっていくようで、なんともいえない思いがします。
■chokiさん
自主上映かDVDで、という感じなので、興味のある人以外にはなかなか知られる機会って少ないかもしれないのですが、短時間(約30分)でチベット問題を知ることができるという意味ではとても貴重かもしれませんね。
ぜひ見てみて欲しいです。