家から海まで徒歩15分ほどのところに住んでいても、ひと夏のうち一度も水着に着替えることのない我々が、インドでは毎日足繁く海に通うというのも皮肉な話ではあるが、ついついビーチに長居してしまうにはそれなりの訳がある。
スパイスたっぷり、食べ応え満点のインド料理もいいけれど、たまにはパスタやピザや塩コショウで味付けしたステーキなんかも食べたくなる。
便利でなんでも揃って刺激に満ちた都会の魅力も捨てがたいけど、慢性的交通渋滞のために排気ガスでもうもうとした空気、むやみやたらとクラクションを鳴らすという騒音地獄からは、ちょっぴり距離を置きたいと思うこともある。
振り子が振りきれるように、まったくこれまでとは違う環境でひたすらのんびり過ごしたい! という欲望は、ゴアでのビーチライフを満喫することによって解消されるどころか、ますますほかのビーチはどうなんだろう、という興味へ変換されるハメになった。
アランボールから南に4kmほど下ったところにあるマンドレムビーチ。
のんびりしたいならここほどぴったりの場所はない、という友人のリコメンドによりやってきてみれば、まさにその言わんとしていることがよくわかるような静かな場所に思わずにやり。
それなのに、ただただのんびりすることに若干のためらいを感じる貧乏性の我々は、すぐさまバイクを借りてこの辺りを探索してみることにした。
とくに目的地を定めずに、ひとまず南へ。
南国植物のあいだをくねくね通る道を抜け、まっすぐ延びる大きな橋を渡り、ゆっくりしたスピードで走りながら気になったポイントで一旦停止してしげしげと周囲を眺める。
かつてポルトガル領だったゴアはキリスト教徒が多い地域ゆえ、道ばたにはぽつぽつと十字架が建っている。
極彩色の神様でにぎわうインドで見る十字架は、なんとも不思議なので見つける度にいちいち止まって鑑賞タイムが始まってしまう。
そうこうしているうちに、ツーリストたちがぼーっとしながらお茶をすすっていたチャポーラー、休日を楽しむインド人で大にぎわいのヴァガトールへ到達したので、ここを折り返し地点にして、ふたたび同じ道を通って戻る。
太陽が照りつける中を走って日に焼けた体を冷やすべく、ひと休みしてから宿の目の前にあるビーチへ繰り出す。
海はとても遠浅で、かなり沖まで出たつもりでも体の半分ぐらいしか水に浸かっていないというほど。
ここでは泳ぐよりも、ビーチサイドでベッドを借りて読書するほうがしっくりくるかもしれない。
夕暮れどきの涼しい時間帯になると、地元の人たちがちらほらやってくる。
彼らに混じり海から上がって砂浜で夕日を見ていると、つつーっと波が砂浜の上をなめらかに滑って戻ってを繰り返し、巨大な鏡をつくり上げて、赤く染まりつつある空を映し出している。
刻々と変化する夕焼け空を、地面にもさかさまになってそっくりそのまま映る情景と併せて眺めながら、ボリビアのウユニ塩湖ではしゃいだときのことを思い出す。
これまでアンジュナ、アランボール、マンドレムとこれまでの滞在は北側に集中していたが、南にも素晴らしいビーチがたくさんあるというゴア。
そろそろ移動を開始したほうが……という思いと、せっかく来たのだから行っちゃえ! という勢いを天秤にかけたところ、あっさり後者に決まったため、最後のビーチライフだからと言い聞かせてパロレムまでやってきた。
あまり情報もなくやってきたのでもう少しひっそりしたところをイメージしていたが、いるわいるわ、たくさんのツーリストが。
中でもロシア人とおぼしき人たちが多いのには本当に驚いた。
パロレムに限らずゴア全体に言えることだが、ロシア語で書かれた看板やメニューを見かける機会が多く、ロシア語で声をかけてくるお土産屋の主人もいたりする。
暑いインドで見るロシア語は、十字架並みに不思議なものだなぁと思いながら通り過ぎる。
少々にぎやかではあるものの、ヤシの木がずらりと並び、弓状にゆるい弧を描いて広がるビーチはこれぞ夢で見るビーチという風情が漂う美しい風景で、うれしいことにこれまでのどのビーチよりも波がおだやかで泳ぐのにも浮かぶのにもぴったりだ。
宿を確保したら、さっそく行動開始。
パロレムでは11月から3月頃までイルカが見られるらしく、ドルフィンツアーの客引きがたくさん言い寄ってくることを聞いていたので、4月に少し差し掛かったいまならまだいけるのでは、という淡い期待を抱き、ビーチでふらふらしながらお声がかかる瞬間を待つ。
しばらくしても近寄ってきてすらくれないため、自分たちが逆に声をかけて情報収集に励むことに。
どうやら今でも見られるらしいことはわかったが、値段交渉が折り合わず、翌朝船に乗り込もうとしている船員に直接お願いする作戦に変更。
そして翌朝。
前日に交渉決裂した相手が「こいつらはきっと来るに違いない」と待ちかまえていた様子で近づいてきて、さあ乗れ乗れ、といった案配で手招きする。
しかしまだ希望の価格になったわけではないので、首を横に振ったところでお互いの言い分合戦のはじまり。
数分間の話し合いの末、合意に達したために船に乗り込み出航。
あれだけおだやかな波だったのに、5分も走るとどっぷんどっぷん船が前に後ろに大きく揺れ出した。
ときどき襲ってくる波しぶきで体は濡れ、揺れは収まるどころかどんどんひどくなる。
怖い、帰りたい。
波しぶきで顔がびしょびしょになった頃、船は徐々にスピードをゆるめる。
近くには別の2隻の船がいて、やはり同じようにゆっくりしたスピードで波のリズムに同化するように漂い始める。
どうやらここがイルカを見られるポイントらしいが、波が高くてよほどの大きなものでもない限り判別することは極めて困難な気がする。
そんなとき、ガイドが「あっちだ!」と指さすほうを急いで見ると、イルカの鼻先だけがかすかに見えた。
それからしばらく沈黙が続き、ふたたび「ほら!」と示すほうにはイルカの背中らしいつるつるの何かが。
その後も2度ほど教えてもらったが我々は見逃してしまったようだ。
縁がなかったんだ、とあきらめようとした帰りがけにガイドが、「今日は風が強いから、イルカは見られないんだ」とつぶやいたその言葉を聞いて、それなら無理にツアーを敢行しないでくれてよかったのに、と恨み言のひとつでも言いたい気分になった。
イルカとのご対面は果たせなかったが、パロレムではカヤックで波乗りのようなことをしたり、砂浜を掘って貝をほじくってみたり、海に入る日々を楽しんだ。
美白に気を遣わなければいけない年頃なのにこれほど真っ黒に日焼けして大丈夫だろうか、と心配しつつも、夏休みの思い出の証みたいなこの肌の色も案外悪くないな、なんて思ってしまうのであった。
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2009.4.12-16 マンドレム – パロレム / Mandrem – Palolem
ウユニの眩しいばかりのホワイト&ライトブルーの世界もよかったですけど、
こちらのちょっと薄明るい赤紫の世界も好いですね!
僕もインドをのんびりとバイクで走りたいなぁ・・・。
■shinroくん
きっと、これは日本でも遠浅の海岸とかならば出来ると思うけどね、日の沈む方向も関係あるのかな。
インドでバイク、田舎しか走れないけど、良いよ。
都会だと確実に事故ります!
運転にマナーもへったくれもないもので。