レーへ行くための通過点として滞在したマナリ。
このときはジープの申し込みをしたらすぐ出発というタッチ&ゴーな状態だったので、見どころらしきところへは行けずじまいだった。
しかしこの街にはツーリストなら目をキラキラさせてしまうような魅惑的な楽しみがごろごろ転がっている。
温泉にさまざまな野外アクティビティに、かわいい洋服屋巡りにおいしいコーヒーやデザートでひと息つくことだって。ふたたび戻ってきた今、それを楽しまずして去るなんてもったいない。
前回宿を取ったのは夏休み中のインド人避暑客でごった返すいわゆるマナリの中心地で、建物が密集し、夕方ともなると初詣かバーゲンかという大にぎわいの様相を呈していた。
それも悪くはなかったのだけれど、もう少しのんびり骨休めできるほうが性に合っているということで今度は4km離れた温泉のある村、ヴァシシュトへ行ってみることに。
高山病にはならずに済んだ復路だが、順調に飛ばしていたように思えても結局は予定到着時刻をとっくに過ぎた22時過ぎにようやくマナリ着。
オートリキシャーで向かうヴァシシュトへの道は、街灯もまばらでどんな景色の中を進んでいっているのかがまったくわからない。
けれど、翌朝起きて驚いた。
宿のテラスに出てみたら向こう側には木々の生い茂った山、目の前には川という豊かな自然に囲まれた立地だった。荒涼としたラダックを過ごしたあとだからか、同じ自然とは言えまったくの別の世界に新鮮さを覚える。
さて、さっそく温泉に入りに行くか。
インドに来てから湯船には一度も浸かっていないから、期待のしすぎは禁物と言い聞かせてもやっぱり楽しみで仕方ない。
村自体はとても小さい。
坂になっているメインストリートには、ツーリスト向けの宿やレストラン、土産物屋が点々と並ぶだけ。上り切ったところで車道は行き止まりとなり、近くにあるのはヒンズーの神を祭ったヴァシシュト寺院。ということは、このすぐそばに公衆浴場があるはずだ。
しかし見渡してもそれらしいものが見当たらない。脇道に入ると確かに熱めのお湯が流れ続ける水道や、男性のみ入浴中の露天風呂はあるが、いくら温泉に入りたいからと言ってもここに女性が入るのはかなり無謀だろう。
と思っていたら、温泉はいったん寺院に入ってからでないと行くことができない仕組みで、温泉であることには違いないけれどれっきとした沐浴場になっていた。
壁には神の彫刻があり、湯船に入るインド人は頭までザブンとお湯の中へ。ヴァラナシで見たときと同じ沐浴スタイルだ。
さっそく服を脱いで、湯船の脇にある水道で軽く体を流したらいざ入湯。
足を浸けた途端、あまりの熱さで反射的にお湯から上がってしまった。
推定温には45~46度といったところか。小さい頃に連れられていった銭湯で、熱くて湯船に入れなかったことを思い出す。でももう大人だ、これぐらいの熱さでひるんでいてはいけない。
ふたたび湯船に向かい、あまり大きな動きをしないようにそろそろと静かに進み、ようやく体を沈める。
久々の湯船の感動を味わうと言うよりじっと身を潜めているような気分だが、それでも体全体がお湯に包まれる喜びを肌でひしひしと感じていた。
熱いと感じるのはインド人も同じようで、さっと頭まで入ったらすぐに上がって火照った体を冷ましている。
「日本にも温泉がたくさんあるんだろう? 熱いか?」と横にいたインド人が話しかけてきた。「熱いよ、日本のはもっと穏やかだ」「ゆっくりと入っていけばいいんだよ」
そう言って彼は実に気持ちよさそうに浸かっていた。
なかなか同じようにゆっくり入っていることは難しそうに思えたが、出たり入ったりを繰り返していたら、ずっと浸かっていることができるようになった。
風呂から上がってみると、体の芯までしっかり温まったみたいでずっとぽかぽかが続いていた。
翌日は、前々から気になっていたアクティビティにチャレンジするため、マナリ郊外にあるソラン・ヌッラーを目指す。
ソラン・ヌッラーは冬にはスキー場として、夏にはパラグライダーや乗馬を気軽に楽しめる場所として人気が高く、この日もたくさんの家族連れやカップルが訪れていた。
今回挑戦したのはゾーブ。これはニュージーランド生まれのぶ厚い巨大透明ボールの中に人間が入り、それを斜面から転がして楽しむというもの。
日本でもいくつか楽しめる場所はあるが、まさかインドで体験することになるとは思いもしなかった。
声をかけてきたスタッフに先に転がっている様子を見てからにしたいと言ったのに、ほかにやる人がいないのか早く早くと急かされて準備に取り組む。
スタッフがふたりがかりでゾーブを斜面の上まで転がして運び、そのあとをついて歩く。次第に息が荒く、顔が真っ赤になっていくのを見ていると、気楽そうに見えたこのアクティビティも意外と大変なんだなということに気づく。
荷物を預け、ついでに動画を撮ってとカメラも1台渡して中に入ろうとする。
が、これがまた一苦労で、狭い穴に目がけてジャンプしても空気の詰まった内壁が厚すぎてつかまるところがなく、なかなか入っていけない。なんとか自力で突入したあとは慣れたスタッフがさっと入ってきて、残るひとりを中から引っ張ってもらう形で入れてくれる。
内側に設置されている大きなマジックテープで手首と足首を固定され、メガネを外してこれで準備は完了。
あとは転がしてもらうのを待つだけになって、急に不安が襲ってきた。
片やスリリングなもの全般が得意、片や絶叫マシーンが大の苦手。この組み合わせのふたりが同時に乗って、果たして双方ともに楽しめるのだろうか。
遠目には透明に見える球だが、実際は外の景色がわずかに見られる程度。
「じゃ、いくよ」の声とともに、ゆっくりと回転し始めた球は徐々に勢いを増しつつあった。
そのとき、固定したはずのマジックテープが外れ、片足がぶらぶらしたままどんどんスピードアップ。よりによって絶叫マシーン嫌いのほうに降りかかった災難、しかしいまさらどうしようもできない。
悲鳴もますますヒートアップ。天地があべこべになって回っているのはわかるけれど、いったいどんなことになっているのかはよくわからないままキャーキャー叫び続けて、ようやくストップ。
わずか1分ほどのことなのにずいぶん長い時間だったようにも感じたが、終わってみれば怖さよりも大声を出したことで妙に気分がスッキリ爽快になっていた。
いいじゃない、ゾーブ。
インド人による撮影 by GX8
内部より撮影 by GX200
ヴァシシュトに戻ってきて、叫んだときにかいた汗を流すべく温泉へ向かう。
前日よりも人数は多く、その中には外国人の姿もある。
温度高めは相変わらずで、熱すぎるのか一瞬入ってすぐに出て行ってしまう人が続出。しかし、源泉の流れる真ん前に陣取っていたサドゥーは違った。
肩までしっかり浸かり、長いことじっとしている。これも修行の一種なのか。
そして、壁に施された神の彫刻の前に座ろうとする人にはさりげなく注意。「そこは神様の場所だから」
自然と娯楽、そして神と寄り添った日常。
ヴァシシュトでの日々は、肩の力を抜きながら全神経をフル稼働して楽しめる、感じることができるという不思議な満足感に浸って、あっという間に過ぎていった。
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2009.7.10 ヴァシシュト / Vashisht
Vashisht懐かしぃー!
あの温泉は健在でよかったー☆
オレが浸かった時は生ぬるい温度のお湯で、
温泉好きの日本人としては物足りなかったんだけど、
今は熱いくらいなんだね。
さすがインド流温泉じゃ。
それにしても、ゾーブの映像おもろいね~。
2人の元気な笑い声が聞けて安心しました。
bon voyage!
tat
■tatくん
生ぬるいほうがゆっくり浸かれてよかったかも。
まるで熱湯風呂みたいだったもの(笑)。
でも、湯船に入ると元気になるんだから、しみじみ日本人だと実感したよ。
ゾーブね、日本でも5カ所できるところがあるんだよね。今度行ってみようよ。