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6度目となる旅を終えて帰国した。
ベトナム滞在の後半は予想外の寒波の影響をもろに受けて、気温が低くぐずついた天気が続いたため、日本に戻ってきて太陽の光を浴びたときなんだかとてもホッとした。
1週間前までは、ギラギラ照りつける日差しに「たまには曇ってくれればいいのに」と思ったはずなのに。

雪の降るサパを一日早く切り上げ、最後は首都ハノイに4泊。
4年前に訪れたことのある地で、あのおいしい麺の名店の味が忘れられないとか、よちよち歩きでこの遊歩道を行ったり来たりしたとか、そういやここで写真を撮ったなとか、いろいろな思い出が蘇って懐かしさがこみ上げる。
1歳では到底理解できないだろうと、当時は観にいくのを諦めたタンロンの水上人形劇も、5歳になった今回はいっしょに楽しめた。
バイクや車がびゅんびゅん通り過ぎる道路の横断だって、手をつなげば平気だった。
旅の最中の何気ない行動の一つひとつが、前回と今回とではずいぶん変化していて、旅を通して成長を感じるのもなかなか面白いなあと思いながら過ごしていた。

チビオトがこの旅で知った言葉のひとつに「臨機応変」がある。
定刻通りに運行すると予告されていた飛行機の出発間際の遅延や、まさかの寒波到来、雨続きの空模様など、予測がほぼ不可能な事態に直面したことが何度かあった。
もちろん「えーっ!」と不満気な表情を浮かべるのだが、大人だって内心「勘弁してよ」とうんざりだった。
でも、そこで文句を言ったってどうしようもないんだから、今できるいちばんいい方法を考えてみよう、それが臨機応変だよ、と伝えた。

理解できたかどうかは別として、「臨機応変」という言葉は素晴らしいスイッチになった。
急な予定変更を迫られても、「ほら、臨機応変だよ」と言うと、ああそうか、じゃあ何か別の手段を考えるか、という気分にしてくれたようだった。

もうひとつ、「退屈」もいい刺激になったと思う。
いろいろ楽しむために旅に出ているのに、退屈とは何事かという感じだが、旅先でのお楽しみは24時間エンドレス、というわけではない。
それに日本からの荷物は最小限に留めているから、おもちゃや絵本だって厳選したアイテムしか持ってきていない。
飽きてしまっても代わりがないのである。
最初のうちは「ほかに遊ぶもの、ないの?」と聞いてきたが、次第にそれが無駄だと感じ始めると、いろいろ工夫をし始めた。
裏紙で紙飛行機を折ったり、宿でもらった周辺地図にチビオトなりのルートを書き込んでみたり、トランプを使った足し算ゲームを編み出してみたり。
とくにトランプには大いにハマり、ババ抜きや七並べ、神経衰弱、ポーカーなど、食事が出てくるのを待つ時間には必ず遊び、空腹でも不機嫌になる暇がなかったので助かった。

自分のお気に入りに囲まれた場所から離れることで、普段なら思いつかないようなことをひらめき、やらないようなことを試す。
旅がそういうきっかけにもなればいいなあと思う。

ベトナムではまもなく旧正月を迎えることもあって、街のあちこちで赤と金で彩られた飾りを目にした。
そんな華やかな通りをタクシーで通り過ぎたとき、チビオトがふと「鎌倉よりベトナムがいい」、「なんで28日に帰らないといけないの? 日にちは変えられないの?」と目を涙ぐませながら話してきた。
19日間のうちにサイゴンの35度と、サパのマイナス4度を体感した旅。
気温差が激しかったにもかかわらず、全員元気でいられたのは快挙といってもいいだろう。
サパでは少数民族に会いに行けなかったし、サイゴンやハノイではもっとショッピングを満喫したかった。
バインミーはたった1回しか食べられなかったし、生春巻きはしょっちゅう食べていたけれど、全然食べ足りない。
思い残したことがたくさんのベトナム。
また来ればいいよね、と言いつつ、「ねえ、次どこいく?」と帰りの飛行機で計画を練り始める私たちが、次にベトナムを再訪するのはいつの日か。

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