庭木の葉っぱがだいぶ落ちてきて、掃いて集めるとかなりの量になる。
掃いても掃いてもしばらく経つと落ち葉のじゅうたんが復活して、軽くため息をつきたくなるこの季節。
赤や黄に色づいた葉はとても美しく、いつまでも眺めていたくなる光景なのだが、そのまま放っておくのもいかがなものか。
なんて悩みつつ、いったん竹熊手を握る手を休め、家でぬくぬくしながら読書に耽ろうかと。
『人生を変える大人のアジアひとり旅』は旅行作家、荒木左地男さんによるトラベルエッセイ。
大人の、とある通り、これからいろいろ見てみたい若い世代より、日々仕事に邁進する中年の方々に向けて書かれた内容が中心である。
さすがに30年、40年……と生きていれば、人生の大概のことはわかったような気持ちになるし、わからなくてもネットで調べれば一発で答えが出てくるから、まったく未知のことに出会う機会というのはぐんと減ったと実感する。
今では自分なりに導き出したパターンに当てはめて、物事を見るクセがついてしまったとも思う。
普段はそれで別段困ることもないのだが、ふと悩んで立ち止まったときに、どうすればいいのだろうと途方に暮れてしまいそうな予感が、ずっと心の奥底にある。
なんというか、もっと視野を広げておけばよかったのに、気づいたときには惰性で凝り固まった心が言うことを聞いてくれない、というような恐れみたいなものが。
そうなる前に、本書を読んで「よし、ひとり旅にでも出てみようかな」と思えたらステキだな、と思った。
これまで仕事でもプライベートでもたくさんの旅を重ね、かつ、セミリタイアメントして家族5人で1年半ボルネオに住んでいた経験を持つ荒木さんは、人生の経験値を積んだ中年こそ旅先で面白い経験ができるはず、と説く。
予算がそれなりにあるから、高級なホテルも安宿も、ホテル併設のバーも地元民御用達の食堂も、気分によって使い分けられる。
若い人たちと同じ目線で語らうこともできるし、諸外国からやってきた同じ年代の旅人と交流する機会も持てる。
なにより、今まで気づかなかった自分の意外な一面に気づくことができるというのは、かなり大きな収穫になるのではないだろうか。
旅なんてずいぶんご無沙汰で、プランニングとか情報収集とかどうしたらいいだろう……、という方も心配ご無用。
荒木さん流の大人旅のノウハウも掲載してある。
「旅で人生が変わった」というドラマティックな展開を求めるより、「旅で人生がより充実した」と言って気楽に旅を続けられる大人でありたい。
読み終えた後に、そんな決意を密かに抱いたのであった。
双葉社 (2014-11-13)