写真家・竹沢うるまくんの著書『The Songlines』は、約3年半に渡る世界一周の壮大な旅のストーリーである。
この本を読み始めたのは、2015年3月18日。
奇しくも、彼が本の題材となった旅に出発したのが、5年前の同じ日だった。
文字で埋め尽くされたページをめくっているのに、ジャングルの暗い小屋の中とか、アマゾン川を下っているときの粗末な船とか、土埃が舞うアフリカの街中で一方的にまくしたてられているときの様子とかが、目の前にありありと浮かぶ。
訪れたことのない国でも、そこの風景がはっきりと見える。
そして、彼が旅先で感じたことを擬似体験して、胸が締め付けられるような思いがしたり、現地の人の言い分にうんざりしたり、無力感に打ちひしがれたり、あたかもその場にいたかのような気分になった。
読み終えたあと、ものすごい本に出会ってしまったなあと興奮し、本の世界を頭の中で反芻しながら余韻に浸っていた。
彼は先日、日経ナショナル ジオグラフィック写真賞 2014でグランプリを受賞した実力派の写真家だ。
鎌倉に住み、旅にまつわる仕事を手がける同世代の友人として、何度か会って飲んだり食べたりしているけれども、旅の話はほとんどしたことがなかった。
写真集『Walkabout』も持っているし、インタビュー記事を見かけたらチェックしていたので、なんとなくどういう旅をしたのか知った気でいたのかもしれない。
でも、この本を読み進めてみたら、旅との向き合い方があまりにも真剣で、それゆえに喜びも苦しさも極端で、彼の知られざる一面に言葉を失った。
本の中で繰り返されることだが、彼の旅は「出会い」がつねに転機をもたらした。
誰かと出会うことで気持ちに変化が生じて、そこから自身の内面の奥深くまで探っていく姿は、修行僧のようにも見える。
それを表現するために、今回は写真ではなく言葉を選んだ。
彼は本書の中でこう綴っている。
「物事を写真で表現する写真家として、その世界を写真で表現しないで言葉に頼るということは大きな矛盾があるように思える。」
その後には、こんな一文が続く。
「しかし、そこにはやはり確かに写真では掴みきることができない世界がある。」
旅での一つひとつの出来事を描写するために、考えに考え抜いて絞り出した言葉は、心に深く染み入る素晴らしいものだった。
身体をめいっぱい使い、心の中をさまざまな感情で溢れさせた彼だからこそ、成し得たことだと思う。
同じような旅ができる人はあまり多くはないだろう。
でも、この本を読んで彼の旅の追体験をするだけでも、きっと世界の見え方が変わってくるはずだ。
『The Songlines』の読後、久々に『Walkabout』を開いた。
掲載されている写真を見ていたら、以前にも増して被写体がこちらに訴えかけてくる気がした。
2冊セットで読むと、彼の旅がより鮮やかに目の前に現れる。
ぜひとも両方揃えていただきたい。