これまでの旅で、もっとも強烈な個性を放つドラマチックな宿と出会ってしまった。
バリ島の宿泊施設は格安のゲストハウスから高級ヴィラまでよりどりみどり。予算に比例して快適かつ贅沢になるのかと思いきや、インドネシアではゲストハウスでもプール・朝食込みというところが結構あるから、安さで選んでもOKとしたいところ。でも、ちょっと待った。
子連れの場合、とくに気を配りたいのは「音」。チビオトは3歳を過ぎた今もときどき夜泣きするし、日中はドタドタ走り回るので、こちらの音が丸聞こえでは隣室の方に申し訳ない。ゲストハウスは壁が薄い場合もあり、そうなると結局お手頃価格のホテルに泊まるのが安心で無難という結論になりがちだった。
しかし、一年に一度の旅で、実用面だけを考えた宿選びというのもなんだか切ない。一カ所ぐらい、値が張っても心にしっかり残るようなところに泊まりたい。
そこで見つけたのがバリ島ウブドのはずれ、サヤン地区にあるBambu Indah(バンブーインダー)というホテル。
ジャワの貴族が婚礼の際に使用したという伝統家屋を11棟移築し、ヴィラとして利用している。周囲にはオーガニックの野菜やハーブを育てるパーマカルチャーの畑や、塩素や殺藻剤を使わずバクテリアの力で浄化する天然プール(正しくはnatural swimming pond)、そしてヤシの木の上には竹を使ったツリーハウスなど、ユニークなものがたくさん。トンボやヤモリ、水路にはおたじゃまくしなんかがいて、生きものの気配を感じながら探検気分で敷地内を散策できるのがうれしい。
今回泊まったのは黄色のペイントが目を引くKuning House。黄色い家という意味だとか。大人はアンティークの建物とインテリアに心がときめいたが、チビオトにとってはプールがすぐ目の前というロケーションが魅力的だったらしく、ひと泳ぎしようとすぐさま水着に着替えていた。そばに生えているヤシの木にはロープが結びつけてあって、ぶら下がってダイブするというダイナミックな遊びもできるし、ビート板やフィンの用意もあるから心ゆくまで水と戯れることができる。実際に入らなくとも、プールサイドのデッキチェアに陣取って本を読み、ちょっと疲れたら前方に広がるアユン渓谷の美しい緑豊かな風景で目を休めるというのもよさそうだ。
ちなみにKuning Houseはプールから3メートルほど高い位置にあるため、部屋からもこの素晴らしい景色と心地良く吹き抜けていく風を堪能できてなんとも贅沢、と思いながら、水遊びに興じるチビオトをテラスから眺めていた。
せっかくなので室内設備についても少々。驚いたことに、ドアに鍵がついていない。誰もがセキュリティーに不安を覚えると思うが、スタッフが夜間も懐中電灯を片手に見回りをしているとのこと。部屋には自分でナンバーを設定するタイプのセーフティーボックスもあるから、貴重品はそこにしまえば安心だ。
もうひとつ仰天したのがシャワールーム。排水口が見当たらないのだ。床を見るとすき間だらけの板張りになっていて、地面が見えている。
それでは、排水はすべて土に染みこんでいくということ……!? どうも土壌にそのまま排出すると地下水システムに取り込まれるらしく、そのため備え付けのオーガニックバスグッズを使用して、と説明書きにはある。(ちなみにトイレと洗面所は排水パイプがついている)
一癖あるこのシャワールーム、縦格子のフィックス窓で外から丸見えというつくりに最初は面食らったが、夕方ターンダウンサービスにやってくるスタッフがカーテンをセッティングしてくれるし、シャワーカーテンもあるのでひとまず丸見え問題は解決する。そして思ったほど他者の視線は気にならないというのが、使用してみての感想だった。それより、カエルの泣き声を聞きながらのシャワーという珍しい体験を面白がったほうが、ここの魅力を存分に味わえるというものだろう。
ベッドルームは決して広いとはいえないが、コンパクトに必要なものが揃っているので案外落ち着く。それに室内で過ごすよりも、テラスやこれから紹介するMinang Houseのような半屋外のスペースで過ごすほうが断然気持ち良いから、積極的に外の風に当たりたくなるのだ。
Minang Houseはスマトラからブラックバンブーを運んで建てられたBambu Indahを印象づける迫力のある建物で、ヨガやプライベートディナーといったイベントで利用される多目的スペース。予定が入っていなければ、ラウンジのように自由にくつろいでもいい場所である。スマトラ島のパダンを旅したフルブライト奨学生が、ミナンカバウ族の素晴らしい伝統建築に出会い、正確に寸法を測ってから同じものを90日で完成させたというエピソードにびっくりし(サプライズだらけのホテルだとつくづく思う)、1階のブラックバンブーの柱には何本もの弦が張られていて、楽器として楽しめるという遊び心にニヤリとし、風通りの良さと眺めの素晴らしさは言わずもがなで、とても快適だった。チビオトも大のお気に入りになったと見えて、広々としていて裸足で駆け回れる貴重なスペースで過ごしたいと、何度もリクエストしてきた。
これまでにブラジルのクリチバ、インドのオーロヴィルなど、エコに特化したところを訪れては、目からうろこの取り組みの数々にたっぷり刺激を受けてきた。
当時は大人ふたりだけで回っていたから、今までの人生で培った嗜好や考え方というフィルターを通じて見ていたし、いまいち理解しがたい活動であっても「なるほどそういう考え方もあるんだなあ」と好意的に受け止めていた。もし、まっさらな視点を持つ子どもがいっしょだったらどう感じていただろう。もっとストレートに、快か不快か、楽しいかつまらないかという自分の気持ちに忠実な反応に一喜一憂して、少し感情的に評価していたかもしれない。でも、それこそがよりリアルな印象ではないかと思う。
さて、Bambu Indahはどうだったのか。
ホスピタリティに満ちた対応や水回りの快適さは高級ホテルに引けを取らないと思うし、自分たちの手で育てたオーガニックの野菜を使ったメニューは安心でおいしく、建築物とインテリアのセンスには脱帽した。泊まってよかったと心から思う反面、ときおり始まるカエルによる深夜の大合唱に安眠を妨害されたり、虫よけ対策に気を配っていたつもりでもいつの間にか蚊に刺されていたりと、自然に身を委ねた結果の副産物もあった(新品の耳栓、オーガニックの虫除けスプレーを完備していて、ホテル側もきちんと対策を講じてくれているが)。なかなかワイルドな環境であったにもかかわらずこの価格というのは、Bambu Indahの目指すところを受け入れられないと厳しいかも、というのが大人の正直な感想。では子どもは?
チビオトの口から直接「よかった」と聞けたわけではないが、毎日たくさん動き、泳ぎ、眠り、よく笑い、というその行動から察するに、かなり満足度が高かったと思いたい。
実はこのホテル、「地球上でもっともグリーンな学校」として世界から注目を浴びるGreen Schoolの創設者がオーナーである。「自然と人との共存」という哲学のもとサステナビリティに重点をおいた環境と教育を実践している学校で、なんといっても特徴的なのがあらゆる建築物を竹でつくっているということ。学校の詳しい説明はほかのサイトにおまかせするとして、成長が早く、耐久性や強度、弾力性に富む竹の特性をここまで美しく引き出したアイデアとテクニックにただただ脱帽。その魅力はもちろんBambu Indahでも存分に味わえる。
そうか。Bambu Indahとは美しい竹、の意。名前がホテルのアピールしたいポイントをしっかり表していたのだ。
何かに特化した人やもの、建築物との巡り合いは人生において最高のスパイス。
旅という非日常のひとときを過ごせるチャンスを存分に活かすべく、面白い!行ってみたい!と思ったところにはこれからもどんどん足を運ぼう。
Bambu Indah
http://bambuindah.com/
Green School
http://www.greenschool.org/
バリ島グリーンスクール視察レポート:greenz.jp グリーンズ
http://greenz.jp/2009/07/04/bali_greenschool_report1/
http://greenz.jp/2009/07/05/bali_greenschool_report2/
http://greenz.jp/2009/07/08/bali_greenschool_report03/
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