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インドからの帰国後は、ひたすら片付けや掃除に追われる日々。
出発したのが3月だったから、家の中には冬物や分厚い布団などが出しっぱなしになっていて、まだ冬の気配が残っていた。
そして、梅雨が長引いたせいでどこもかしこもカビ臭い。
これは掃除のしがいがあるぞ、と前向きに考えたいところだけど、実際はかなりげんなりした。
汗だくになりつつ作業に追われ、ようやく前と同じように住めるまでになったので、ここらでひとつ夏休みとして気になっていた展示を見るべく美術館へ出かける。
インドの旅自体がかなり長めの夏休みだったんじゃないのか、という突っ込みは、この際なしにして。


今回訪れた3つの展示は、どれもインド滞在時にニュースサイトで知っていたもの。時期が間に合うなら絶対に見ておきたいと思っていたので、嬉々として出かける。
家からのんびり歩いてやってきたのは、鶴岡八幡宮の境内にある神奈川県立近代美術館。
ル・コルビュジエに師事した建築家坂倉準三の、都市に溶け込む作品にスポットを当てた展示を開催中だ。
パリ万博の日本館で脚光を浴び、その後は日本の地に次々と斬新な作品を生み落としていったモダニズム建築の旗手である彼の建築物には、多くの人が知らず知らずに触れているに違いない。
例えば、新宿西口の広場一帯に大きな曲線を描いて延びるターミナルと言ったら、あぁ知ってる、とわかるだろうか。

数年前、東急文化会館の解体が決まったことを、ニュースで見たという人もいるだろう。
神奈川県民なら、パスポートを取る際に関内にあるパスポートセンターの隣のシルクセンターが身近かもしれない。
日常にすっかり馴染んでしまって言われるまで気がつかないと言えば、「近美」と呼ばれるこの建物も坂倉の作品。



これまでは「ずいぶん地味な作品だなあ」と思っていたけれど、それもそのはず、建てられたのは戦後すぐの、資材が乏しい時期だった。そんな苦しい状況の中でどんなことができるかを考え、実践してきた経緯を知ると、本当に頭が下がる思いがする。
多忙を極めるコルビュジエが、インドへ向かう途中で鎌倉に陣中見舞いにやってくるというあたりも、坂倉にどれほど信頼を置いていたかが伺える。
この展示でいちばん印象に残ったのが、出光興産が「すべて違うデザインにして欲しい」と依頼をしたガソリンスタンドの数々。
今から50年も前に、こんな夢のようなガソリンスタンドが存在したの? と思わずにはいられないデザインのオンパレードに、図面を見ながらニヤニヤしてしまった。
■建築家 坂倉準三展 モダニズムを生きる 人間、都市、空間
神奈川県立近代美術館(鎌倉)
9月6日(日)まで
※パナソニック電工 汐留ミュージアム(汐留)でも展示を開催中。9月27日(日)までなので、こちらも見にいきたい!
■建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン

都内に出かける機会があればぜひ見にいかねば、と思っていたのが国立西洋美術館。

インドでさんざんコルビュジエ巡りをしていたのに、日本で唯一のコルビュジエ建築であるここには行ったことがなかった。
しかも国立西洋美術館を訪れれば、アーメダバードの市立美術館、チャンディーガルの美術館と、「無限成長美術館」の構想で実現した3つすべてを見たことになる。これは外せない。
タイミングのよいことに、今年は記念すべき開館50周年記念ということで、ル・コルビュジエの小展示が行われている最中だった。
閉館40分前というギリギリの時間に到着してしまったけれど、行かないわけにはいかない。常設展示は早足で見る代わりに、本命のコルビュジエをじっくり見ることにして中へ。
日本側から設計の依頼を受けたコルビュジエは最初のプラン提出の際、美術館だけでなく周りにホールなどほかの施設も備えた、敷地全体をいっぱいに使った案を送ってきたようだ。
さすがは巨匠、限られた枠にとらわれず、このほうがよいと思えば頼まれていなくたって提案してしまう。
残念ながら、予算面などで折り合いがつかず予定通り美術館だけとなってしまったが、当時の図面を元につくられた大規模な模型のおかげで、空想して楽しむことができた。
つねに大プロジェクトが同時進行だったコルビュジエ。
直接指示をするわけにはいかないから、コルビュジエに師事した前川國男や吉阪隆正、そして先ほど登場した坂倉準三の力を借りて完成にこぎつけた。
事前に坂倉準三展を見たせいか、同じ時期にどんな物事が起こっていたか、そのシンクロ具合がよくわかる。学生時代にあれだけ歴史の授業に退屈したというのに、自分の興味のある分野だとこれほどに面白く感じるものか。年表を眺めながら、頭の中ではコルビュジエと坂倉らのやりとりが見えるようだった。
■ル・コルビュジエと国立西洋美術館
国立西洋美術館(上野)
8月30日(日)まで

最後は、子供から大人まで楽しめる一風変わった写真展。
今回の旅でカメラGX200を提供していただいたRICOHのギャラリーRING CUBE内に、なんと動物園ができてしまったのだ。
もちろん銀座のビルの中にゾウやキリンを連れてくるわけにはいかないから、その写真をほぼ原寸大にして展示してしまおう、というもの。
写真の枠を飛び出したこの展示、非常に面白かった。
ただ大きく引き伸ばして並べているのではなく、普通に動物を見ているだけではお目にかかれないであろう動物たちの愉快な表情や珍しいポーズなど、もしかしたら動物園に行くよりも新しい発見があるかもしれない、と思わせる工夫が随所に感じられる。
それなのに、撮影された場所の中にはおなじみの動物園やサファリパークがあったりするのだから、あなどれない。

聞けば客層も幅広く、保育園児が手をつないで見学にやってきたり、孫とおじいさんが仲良く見ていたりと、あまり写真展には足を運ばないような人たちがたくさん訪れるそうだ。これには納得。
次回の展示もなにやら気になるし、銀座に行くときには必ず立ち寄るスポットのひとつになりそうだ。
■銀座どうぶつ園
RING CUBE(銀座)
8月31日(月)まで
どれもまだ観覧が間に合うので、夏の締めくくりにぜひ訪れてみてはいかが?

Join the discussion 2 Comments

  • asaka より:

    お二人さま、お帰りなさい!
    インドの旅を一緒に楽しませていただきました。
    また本になるのかな?
    インドにはぜひまた行きたいので、本になりますようにー。
    お会いできることを楽しみにしています。

  • かな子 より:

    ■asakaちゃん
    ただいま!
    じっくりインドを堪能してきました。濃厚な日々だったー(笑)。
    これからはそれをうまく形にできれば、と思っているところ。さて、これからどんな風になっていくか、我々自身も未知だからこそ楽しみです。

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