12月中旬のこと。
家族で近所の山を訪れた。
視点を変えて、自宅周辺に広がる自然の細部に着目した「Unexpected Moments」制作で、何度も訪れたなじみの低山へ。
そのとき、山中に鳥やリスを良く見かけるポイントがあることに気づいたので、今回は望遠レンズを持っていった。
そのポイントに着いて、目の前に広がる草むらを見るともなく見ながら息を整えていたら、視界の端でゴソゴソッと動いたような気がした。
「いま、あの辺に何かがいた!」
指を差した先には、明らかに草木ではない黒いものがあった。
遠くてはっきりとはわからなかったのでカメラ越しに見てみたところ、正体は「アライグマ」。
あとで調べたら、本当は「タヌキ」だったことが判明したのだが、この時点では完全にアライグマだと思い込んでいた。
しばらく観察を続けていると、草むらからもう1匹がやってきた。たぶん、先ほどのゴソゴソッの張本人だ。
2匹は微動だにせず、こちらをじっと見つめている。
不思議と目が離せなくて、その場に立ち止まったまま見続けてしまったが、息子は「なんかちょっと怖い」と言っていた。
ずいぶん前から、鎌倉ではペットだったアライグマが野生化し、害獣になっているという問題がある。
外来生物のアライグマが増えたために、昔からいた在来種のタヌキが減少したと聞いたことがあったので、このときも「アライグマか~」なんて思っていた。
ところが、本当にアライグマかどうか一応調べてみるかと思い、検索したところ、勘違いだと判明。
あれはタヌキだった。
事実がわかったのとともに、数が減っているタヌキに会えたことが、なんだかうれしかった。
12月下旬、仕事で薩南諸島を巡る機会があった。
屋久島ではガイドをつけてトレッキングしながら撮影をしたのだが、苔で覆われた森の美しさに魅せられて、飲まず食わずで夢中になって撮影をしていたら、声をかけられた。
「この先の川の水は飲めますよ」
山間部の川には微生物が存在せず、また魚も生息していないため、飲用できるほどのきれいな水が流れているのだという。
口に含むと、少し冷たくて、やわらかくて、歩き疲れた身体にほどよく染み渡った。
さて、帰り道でヤクザルを見かけたとき、ふと「屋久島にはサルとシカのほかに動物はいますか?」と質問をしてみた。
現在はタヌキが増えていて、雑食の彼らの糞尿が川の水に影響を与える可能性があるのだとか。
そうなると、さっきのように清流をいただくこともできなくなってしまう。
屋久島に暮らす人にしてみれば、タヌキが外来生物で、害獣なのだ。
調べてみると、屋久島に限らず、タヌキは害獣として認識されているケースが多いと知った。
山林が減っているいま、人の住むところに降りてきて畑を荒らしていくと聞けば、タヌキもなかなか厄介な存在だと思わざるを得ない。
タヌキだと知ったときにはうれしかったのだが、知れば知るほど複雑な気持ちになっていった。
アライグマよりもタヌキのほうがが弱者だと思い込んだための、アンダードッグ効果だったのか……。
神奈川県はアライグマ防除実施計画を実施しているというが、そもそもアライグマだって人間が連れ込んだもの。
そして皮膚病を患っているタヌキの話も見かけるが、下記の記事によると、野生動物がアレルギーを起こすのは、人間の残飯である加工食品を口にするのが理由だという。
<暮らしの中の動物たち>[24]タヌキ/多い皮膚病 残飯が原因(河北新報)
悪いのはアライグマでもタヌキでもなくて、人間だったのかと思うと、気持ちをどこに持っていけばいいのかわからなくなってしまう。
たまたま出会った2匹のタヌキから、多くのことを知り、考えるきっかけになった。
人間と共存できる方法があればいいのだが……。
また山に様子を見にいってみようと思う。