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新型コロナウイルスの影響が長引き、年に一回は海外へ、というのもしばらくは難しそうだ。
パスポートを持って旅に出られるのは、数年先になるかもしれない。
そう思うと、これまで(割と)気軽に他国を訪問していたのが信じられないぐらい、旅が遠い存在になってしまった。

不安をやり過ごそうと春先から庭いじりを始めたのだが、そのときにふと目に留まったのが植物のディテール。
これまでまじまじと眺めたことがなかったけれど、葉脈なんて「異次元だなあ」と感じずにはいられない美しさだった。

旅の醍醐味は、「未知との遭遇」だと思っている。
でもそれは、海外に行かなければ絶対に得られないものというわけではなく、ごく身近なところにも溢れていた。
家の近所であっても、視点を変えればたくさんの「未知」が転がっている――。
そんなことを感じて、今まで持っていなかったマクロレンズを手に入れ、さらにさまざまな角度で撮るべく新しいGoProも購入。
10月から11月にかけて、自宅の庭のほか、近くの山や海へと何度も足を運んで撮影をした。

視点を変えてみると、これまで素通りしていた場所にも面白い被写体が潜んでいた。

とりわけ印象的だったのが1本の倒木だ。
根元から倒れているその木の周りにはほかの樹木が生えておらず、まるで倒木を中心とした広場のようになっていた。
根のあたりは別の植物に覆いつくされ、内部には極小のキノコがびっしりと生えていて、横たわった状態で共存している姿がなんとなく気になり、何度もこの場所に足を運んだ。
ある日、訪れてみたらキノコがなくなっていた。
乾燥した日が続いたからだろうか。
あのときに見ることができたキノコのある倒木の風景は、旅先での「思いがけない瞬間」そのものだと思った。

海では岩場にGoProを突っ込んで撮影をした。
徒歩圏内で何度も来たことがある海とはいえ、初めて見る海中の景色は「未知」がいっぱい。
ヤドカリが岩から転がり落ちるのは、身を守るための作戦だろうか。
ゴツゴツとした浅瀬に直接顔を入れて覗き込むことなんてなかったから、新鮮な光景に大いに興奮した。

いつでもどこでも気軽に旅ができた頃には気づかなかった、足元に広がる豊かな世界。
早く海外に飛び立てる日がやってきますようにと願わずにはいられないけれど、それまでは身近な場所を、もっと目を凝らして眺めて楽しんでみるのもいいかもしれない、と思う。

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