青春18きっぷの旅、春に続いてこの夏も出かけた。
今回の行き先は妻の実家がある青森。
チビオトが赤ちゃんの頃はなるべく短時間で着くようにと飛行機で帰省し、電車好きになってからはもっぱら新幹線を利用。そして9年目となったいま、新たなる交通手段を使うことに……!
と大げさに書くほどのことではないけれど、正直なところ旅費の大幅な節約につながり、かつ今まで見たことのない風景に出会えるというのは、とても魅力的だった。
今回はできるだけ身軽に行きたいと思い、出番の少ない単焦点レンズをつけたカメラひとつに絞って、出発の朝を待つ。
早朝4時57分、始発で鎌倉駅を出る。
大船で上野東京ラインに乗り換えて、上野から宇都宮線に乗り込むと、あまり馴染みのない場所を走るようになり、ワクワク感が急上昇。手動の開閉ボタンが使えるようになったのもうれしい。
宇都宮駅に着いたのは7時51分。ここで一旦下車。
腹が減っては戦はできぬということで、朝食に餃子定食を食べることにした。
食後には餃子像を見て、撮って。
滞在およそ1時間弱のうち、やったことといえばこれだけ。でも宇都宮を満喫した気分になれたので、心置きなく18きっぷの旅を続行する。
宇都宮からはちょこちょこと乗り換えが続く。
黒磯からの電車に、バックパックを背負った登山客らしい人たちがわんさかいて、近くに有名な山でもあるのかと思って話しかけてみたところ、彼らは総勢20名ほどのグループで、青森まで行ってそれから山に登る予定だと教えてくれた。
向かいの席には中学生とおぼしき男子3人組や(乗り鉄か撮り鉄か)、鉄道好きの少年とお父さんもいる。さっきも同じ電車に乗っていた人たちだ。
顔見知りというにはほど遠い、でも「あ、あの人たちさっきもいたな」とわかるぐらいのつながりを保ったまま、電車はゆっくりと北上を続ける。
登山グループとは福島で別れた。彼らは米沢方面から行くのだという。
18きっぷで北を目指すなら、もっとも無駄なく進めるルートだ。
けれど、旅音家は寄り道するため、福島からJR東北本線で仙台、そして小牛田へと向かった。
ここからはJR陸羽東線の旅になる。
別名「奥の細道湯けむりライン」の沿線は、田んぼや畑が広がり、山が迫っているエリアもあって、車窓に占める緑色の分量がすこぶる多い。
普段の暮らしでは出会えない風景の中を移動することこそ、旅の醍醐味だなあと感じながら、あっという間に1時間が経過。
本日の目的地、鳴子温泉駅に着いた。
ドアが開いた途端にぷんと漂う硫黄の香り。
改札の向こうには、顔なじみのふたりが手を振って待っていた。
建築事務所Studio Syncrollを営む友人家族がUターンして、宮城県大崎市に拠点を移したのは今年の春。
「スープの冷めない距離」に住んでいたご近所さんと離れるのはさびしいけれど、まあすぐに会いにいくしね、なんて冗談を交わして別れたのに、思いのほか早く再会のチャンスが巡ってきた。
早稲田大学の学生が掘削の実習で源泉を掘り当てた「早稲田桟敷湯」で汗を流して、彼らの家に行って一泊。
子ども同士も楽しそうだし、大人は話が尽きないしで、最高に愉快な寄り道だった。
最寄りの有備館駅で見送ってもらって、2日目スタート。
当初、小牛田まで戻り、東北新幹線とほぼ同じ場所を通る太平洋沿いを北上するルートでの青森入りを考えていたが、鉄道好きのチビオトから待ったがかかった。
路線図とにらめっこし、経路検索しまくった上で彼が提案したのは、山形側に抜けて北上するというもの。
多少時間はかかるが、これまであまり縁のなかった山形と秋田を通り抜けるほうが旅っぽくていい!ということで、チビオト案を採用することに。
前日に比べて、乗り換え回数が短いから楽かと思ったが、裏を返せば、乗車時間が長いということでもある。
有備館~新庄間は90分、新庄~秋田間169分、秋田~弘前間178分と乗りっぱなしの移動が続き、少々疲労感が……。
ホームに降り立ち、外の空気をちょっとでも吸うことでリフレッシュできていたのかと思い知る。
それでも、広大な田んぼが延々と続くのは「おおっ、さすがは米どころ!」と感動したし、小学校の頃に習った八郎潟付近を通過したときには、なんとか車窓から見えないものかと目を凝らしてワクワクしたし(結局見えなかったが)、途中下車した秋田駅構内で見つけたなまはげと秋田犬の巨大バルーンと蒸気機関車のパーツがなんだか面白かったし――、と楽しいことも多かった。
チビオトともいっしょに盛り上がったのだが、さて、彼はこのことを時間が経っても覚えているだろうか。
たくさん写真を撮ったから、いつか振り返る会でもやろう。
ラストはJR奥羽本線の弘前から青森まで、44分間の乗車。
最後の一本に乗るやいなや、チビオトはスタスタと先頭車両の運転台のところに向かう。
18時半過ぎに発車した電車は、学校や仕事帰りの人で多少は混んでいたものの、駅に停まるたびに少しずつ席が空き始めた。
空いたから座ろうと声をかけても、首を振って、ずっと前を見続けるチビオト。
すでに外は真っ暗だ。
青春18きっぷの長い旅が、もうすぐ幕を閉じる。
鎌倉駅を出て39時間20分。
ついに終点の青森駅に到着。
本当はひとつ手前の新青森駅で降りてもよかったのだけれど、終着駅っぽさを味わおうとここまでやってきた。
駅を出て、少し肌寒さを感じるぐらいの風を浴びながら、思わず「着いたー!!」という言葉が口をついて出る。
あと、「まだまだ乗ってても平気だったね」とも。
そんなわけで、2019年の夏の青春18きっぷの旅はこれにて終わり。
次に18きっぷが使えるのは冬。さて、どこに行こうか。すでにぼんやりとプランを練り始めている。