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所用のため関西に行くことになった。
せっかくならば普段なかなか会えない人を訪ねるのもいいだろう、と思って京都に立ち寄る。
新幹線から特急電車に乗り換えて、終点の東舞鶴で降りたら、今度はバス乗り場へ。
いわゆる大型の路線バスをイメージしていたら、やってきたのはマイクロバスで、さらに乗客は全員運転手と顔なじみ。
世間話をしたり、下校して乗ってきた小中学生に「ほら、ちゃんと座り!」と注意したり、まるで親戚一同が集っているかのようなアットホームな車内であった。
バス停があろうとなかろうと、お客さんの降りる場所ではちゃんと停まり、「さよなら」と声を掛け合って別れる。
国内にいるのに外国人になったような、勝手がわからない土地を旅しているんだなあ、という感じがたまらなく面白かった。

走ること45分、運転手のおじさんが「お客さん、どちらで降りるん?」と聞いてきたので、Fon Dinというタイ料理屋に行くつもりだと答えたら、中学生のひとりが「あ、なおちゃんのとこや」とぼそっとつぶやき、おじさんと二言三言話して、それで無事に目的地が伝わったようだった。

終点である瀬崎のバス停では、なおちゃんことFon Dinの店主、直樹くんが待っていてくれた。
約5年ぶりの再会だが、中南米で出会ったときとそのままの雰囲気で、唯一変わったのが隣に奥さんの恭子さんがいたことぐらい。
グアテマラで初めて会い、その後アルゼンチンやパラグアイで共に過ごした直樹くんは、タイ語で雨と土を意味する「Fon Din(フォンディン)」という名のタイ料理屋をここ瀬崎で営んでいる。

立派な瓦屋根の家々に溶け込むようにして立つお店から少し歩くと、目の前には日本海が広がっていた。
太平洋側にある鎌倉から日本海のふもとの瀬崎まで、結構な道のりを一日でやってきたんだなあ。

到着したのが17時だったので、荷物を置いて海まで散歩しにいったら、もう日が暮れてしまった。
家に戻って、彼らのおいしい手料理をつまみつつ、お互いの近況報告をしながらおしゃべりに花を咲かせる。

Fon Dinは週4日、木~日曜の11時半~17時半の営業。
無農薬野菜や地元の新鮮な食材をたっぷり使ったタイ料理のランチ(予約制)のほか、自家焙煎無農薬コーヒー、自家製スイーツを提供している。
お店のオープン時以外は自然農で野菜を育て、果樹の手入れをし、ジャムを作り、オーダーを受けてコーヒーの焙煎をしたり、漁業権を持っているから岩海苔を採取したり、海に潜って牡蠣を獲ったり…。
やることがたくさんあって、のんびりぼんやりする時間はあまりなさそうだが、現在の暮らしに満足しているのが言葉の端々からにじみ出ていた。

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「明日の朝、面白いものが見られるよ」というので翌日は6時前に起床。
まだ外は暗い。
恭子さんは瀬崎で新聞配達の仕事もしているため、どんなに寒くても雨が降っていても、この時間には起きている。
各家庭によって購読する新聞が異なるため、間違えないよう確かめながら準備していると、その脇でネコがニャーニャー鳴く。
2匹いる飼いネコのうちの1匹、ハニーが、いつも新聞配達のお供をするらしい。
さっきのニャーニャーは「まだ行かないの? 早く行こうよ」の催促だったのか。

いざ配り始めると、恭子さんの少し後ろをついて歩くハニー。
ほかのネコの縄張りに差し掛かるとそこでピタッと止まり、配り終えるのをじっと待つが、それ以外はつかず離れずの距離を保ちながら、後ろを歩いていた。
ただ、いつもはいないはずのカメラマンが後ろにいるのが気になるようで、時折振り返って警戒していた。

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長い旅から帰ってきて、こんな風に生きたいという理想と、目の前の現実との板挟みで苦悩する人は多いと思う。
もちろん、自分たちもどうやって暮らすか悩んだ時期があった。
新しい生き方を模索するのか、それとも、以前と同じような仕事をするのか。
どちらを選ぶにしても、いい面も大変な面もあるから、なかなか決断できないというのは本当によくわかる。

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幸いにやりたいことが見つかったとしても、新しい土地で一から関係を築き上げていくのは、それなりに苦労もあるはずだ。
でも、目の前でニコニコ話す直樹くんを見ていると、そんな悩みがあったのだろうかと思うほど終始いい表情をしていて、迷った痕跡がまったく伝わってこない。
難しい年頃に差し掛かった中学生から「なおちゃん」と呼ばれるぐらいだもの、きっと集落の人たちともうまくやっているのだろう。

旅での経験がその後の暮らしを豊かにした、素晴らしい生き方のお手本だなあと思いつつ、淹れたての自家焙煎コーヒーをすすった。

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Fon Din

営業日:木金土日
定休日:月火水
営業時間:11時30分~17時30分
住所:舞鶴市字瀬崎458
電話:0773-60-2063

http://fondin.jugem.jp/

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